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レイフ・オヴェ・アンスネス

 レイフ・オヴェ・アンスネスが昨年12月から肘の不調を抱え、今春の来日リサイタルをキャンセルしたときは、本当に心配した。
 その後、リサイタルは無理だが、ウラディーミル・ユロフスキー指揮ベルリン放送交響楽団とのコンチェルトは大丈夫との情報が入り、曲目がブラームスのピアノ協奏曲第1番からモーツァルトのピアノ協奏曲第21番に変更された。
 3月20日に東京文化会館で行われたコンサートを聴きにいったが、ブログにも綴ったように、アンスネスのモーツァルトは肘の不調をまったく感じさせることはなく、いつもの情感豊かで凛とした美しいモーツァルトだった。
 何より、アンコールに演奏されたショパンの夜想曲第4番が美しかった。
 翌週、インタビューで会ったアンスネスは、いつもとまったく変わらぬ親密さと落ち着きと人柄のよさを感じさせ、「肘は完全には治っていないけど、もうほとんど大丈夫」とのこと。本人の明るい表情を見て、ようやく私もホッと胸をなでおろした。
 新譜の「ショパン:バラード全曲&夜想曲」(ソニー)のライナーには、アンスネスが語るバラード観が詳しく書かれているため、インタビューでは、主として夜想曲に関して聞いた。
 ここでは夜想曲第4番、第13番、第17番が収録されている。各曲について、作品との出合い、解釈、奏法などについて詳しく話してくれたが、時折ユーモアも交え、本当にショパンが好きなんだという表情をしていた。
 アンスネスは、どちらかというと寡黙で真面目で一本気。しかし、初来日から取材を続けているため、本音トークが顔をのぞかせる。そして終始、笑顔を絶やさない。
 このインタビューは、「CDジャーナル」に書くことになっている。次なる大きなプロジェクトに関しても聞くことができたため、それも紹介したいと思う。
 今日の写真はインタビュー後の1枚。最初はカメラの真ん前に立っていたため、「真正面で、ちょっと変」といったら、急にうしろを向いて「どお?」とふざけた。ようやく横向きで撮影できたというわけだ。

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posted by 伊熊よし子 at 22:40 | 親しき友との語らい

クリスティーヌ・ワレフスカ

 3月23日、オーチャードホールで「クリスティーヌ・ワレフスカ プレミアム・チェロ・リサイタル」が行われた。
 このコンサートに先立ち、公演告知のための原稿を書いたため、それを下記に記したいと思う。

[心奥に響く情熱的で生命力あふれるチェロの調べ]

 なんと躍動感にあふれ、情熱的で生き生きとしたチェロの響きだろうか。チェロは奏者が楽器を慈しむように抱え、心臓の近くで鳴らし、あたかもチェリストと楽器が二人三脚で音楽を紡ぎ出すように一体感に富む演奏を生み出す。ゆえに、「チェロは人間の声にもっとも近い音色を奏でる楽器」と称される。
 かつてクラウディオ・アラウが「世界最高のチェリスト」と呼び、1970年代にはジャクリーヌ・デュ・プレと並び称されたクリスティーヌ・ワレフスカは、チェロで喜怒哀楽の感情を表現し、生命のすばらしさをうたい上げる。その演奏は19世紀の巨匠的な深遠さと存在感を放ち、聴き手の心奥に響いてくる。
 ワレフスカはエニオ・ボロニーニの秘曲の演奏を許された稀有な存在。音楽は一期一会の愉悦のときを生み出す。ワレフスカを聴く―それはチェロを通して彼女の生き方を感じ、作品に肉薄し、音楽のすばらしさに酔うこと。まさに彼女のチェロは魂の歌だから。
 
 当日のプログラムは、前半がクープランの「演奏会用商品」、プロコフィエフのチェロ・ソナタ、後半がボロニーニの「アダージョ」「アヴェ・マリア」、ブラガートの「チャカレーラ」、ピアソラの「アディオス・ノニーノ」「天使の死」「オブビリオン」、ショパンの「序奏と華麗なるポロネーズ」。
 ワレフスカはロサンゼルス生まれ。13最でグレゴル・ピアティゴルスキーに師事し、その後パリでモーリス・マレシャルに師事している。世界各地で演奏活動を展開していたが、結婚後は南アメリカに移り、商業主義に振り回されることを嫌って地道な活動を展開していた。
 それゆえ、なかなか来日公演も実現せず、初来日は1974年。その後、36年のブランクを経て2010年に日本ツアーを行っている。今回は久しぶりの日本公演で、心を許すピアニスト、福原彰美との共演がかなった。
 やはりボロニーニの作品がもっとも印象的で、初めて聴く作品だったが、どこかなつかしく、心の奥に訴えかけるものがあり、もっといろんな作品を聴きたいという思いが募った。
 今日の写真はプログラムの表紙。CDは、「クリスティーヌ・ワレフスカの芸術」と題するアルバムがリリースされている。

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posted by 伊熊よし子 at 22:23 | 日々つづれ織り

ピエール=ロラン・エマール

 ピエール=ロラン・エマールは、来日のたびに新たな面を見せてくれる。
 プログラムの根底にあるのは、古典的な作品と現代作品。その両面でこだわりの選曲を行い、これまで何度も聴き手に大きな感動を与える演奏を披露してきた。
 今回も、大きな期待を胸に秘めて紀尾井ホールへと出向いた(3月21日)。
 プログラムは、2003年にエマールのピアノによって初演されたジョージ・ベンジャミン(英国・1960〜)の「シャドウラインズ」で幕開け。カノンがさまざまな手法で用いられた作品だ。次いで、バッハの美学と密接にかかわりながら創作を行った、新ウィーン楽派のアントン・ウェーベルン(1883〜1945)の「変奏曲 作品27」が演奏された。これに英国のオリヴァー・ナッセン(1952〜2018)の「変奏曲 作品24」が続き、エマールらしいプログラム構成となった。
 後半は、J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」。今回のリサイタルは「VARIATIONS!」と題され、すべて変奏曲という手法を取る作品で統一されている。
 エマールのバッハはこれまでも何曲か聴いてきたが、常に適切なテンポに深い感動を覚える。「ゴルトベルク変奏曲」も、静謐なアリアから変奏に移ると、すっ飛ばすような演奏が多いが、エマールはけっして急がない。ゆったりと、1音1音の響きを重視し、バッハの魂に寄り添っていく。
 長い旅路の最後に再びアリアが登場したときは、もうこの演奏が終わってしまうのかと、無性に寂しい思いに駆られた。それほどエマールのバッハの旅は、心の奥に浸透し、どこか別世界にいざなわれたような気分になり、夢を見させてくれたのである。
 この公演評は、次号の「モーストリー・クラシック」に書く予定である。
 今日の写真は、プログラムの表紙。まさに古典から現代の変奏曲を堪能する一夜となった。

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posted by 伊熊よし子 at 15:52 | マイ・フェイバリット・ピアニスト
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