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ルドルフ・ブッフビンダー

 今日、ルドルフ・ブッフビンダーの「アーティスト・レシピ」を公開した。ぜひ、見てくださいね。 
 私はブッフビンダーのピアノが大好きなのだが、彼はインタビューは、かなりしにくい人である。
 まず、作品論をあまり語ろうとしない。そういうことはもうあらゆるメディアで出尽くしているから自分がいまさら、という考えだ。
 それでも、なんとか新譜に関する考えとか、録音の内容などを聞き出そうと試み、四苦八苦していると、突然、饒舌になる。
 それは、楽譜の版に関する質問をしたときである。
 ブッフビンダーは完璧主義者で、ひとつの作品を演奏するときにはいくつもの版を研究し、明らかなミスプリントがあると、楽譜の出版社に訂正を申し出るという。
 しかし、出版社はなかなか応じようとしない。
「ですから、私は自分が調べ上げた作曲家の自筆譜の音符や記号をすべて提示して、ここがこうまちがっている、作曲家の真意はこうだと説明するのですが、相手はなかなか耳を貸そうとしない。いまさら面倒だと思っているのでしょう。でも、それでは作曲家に敬意を表することにはならないし、明らかなまちがいがあるのですから、訂正すべきです」
 ブッフビンダーは、この話題になるとにわかに表情が変わり、雄弁になり、熱弁をふるうために顔が真っ赤になっていく。
 こうした作曲家への真摯な思いとたゆまざる研究が、あの聴き手の心を震わせる演奏を生むのである。
 記事にも書いたが、10月にはまた来日し、ブラームスを演奏する。ブッフビンダーはブラームスのピアノ協奏曲も作曲家の自筆譜を所有しているそうだ。
 さて、どんなブラームスが生まれるだろうか、ひたすら楽しみだ。
タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 23:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 巨匠たちの素顔

ロリン・マゼール

 指揮者の記憶力にはいつも脱帽してしまう。
 あんなに厚いスコアを全暗譜し、スコアなしで演奏する人も多く、特にズービン・メータと小澤征爾の暗譜力には定評がある。
 ロリン・マゼールも、飛び抜けた記憶力の持ち主だった。
 マゼールに関しては、ひとつ苦い思い出がある。
 1985年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを聴きに行き、アンコールのときに私が客席から撮った写真をマエストロが熱望したのに、当時はデジカメではなかったため、フィルムを紛失してしまい、見つからなかったのである。
 その後、インタビューで会うたびに写真のことを聞かれ、とうとう私はマゼールのインタビューを断らざるを得なくなった。
 マゼールが亡くなったときは、本当に心から「ごめんなさい」と謝罪したものだ。あんなに写真を欲しがっていたのに、ついに渡すことができなかったのだから…。
 彼は、プロのカメラマンが撮った写真ではなく、私が撮った写真を見たがった。
「プロのカメラマンの写真は、たくさんもっているよ。もちろん、ニューイヤー・コンサートの写真だって、山ほど見ているさ。でもね、きみがわざわざ日本から聴きにきてくれ、しかもアンコールのときを待って一瞬で撮ったという、その写真は、私にとってはとても価値のあるものなんだよ。あの時期は、もうウィーン・フィルとの関係が微妙な状態で、精神的にはとても複雑な思いを抱いて指揮台に立った。そんな特別なコンサートなんだ。それを聴きにきてくれたんだろう。絶対に、フィルムを見つけてほしいんだよ」
 何度もこういわれたのに、私の整理が悪くて、マゼールの生前にはフィルムは見つからなかった。
 ところが、出てきたのである。
「キャーっ、こんなところに紛れていたんだ」
 私はその写真を見つけ、マゼールのお墓に捧げたいと思ったほどである。
「マエストロ、本当にごめんなさい。いまごろ見つかったんです。遅すぎましたね。でも、あったんですよ、写真が。マエストロがヴァイオリンを弾きながら、アンコールを演奏している写真が。ああ、そのときの演奏を思い出しました。一緒に思い出して、写真を見たかったのに、返す返すも残念。写真を見ながら、当時の思い出を聞きたかったのに…。いつの日か、この写真を携えて、お墓参りに行きますからね」
 私はこう心のなかで話しかけた。
 この写真にまつわる記事は、2012年12月11日のブログに綴っている。興味のある方は、寄ってみてくださいな。
 今日の写真は、ようやく見つかったその貴重な写真。ただし、客席から撮っているので、アングルもピンもそんなによくない。でも、この1枚は、私にとって、マゼールとの大切な思い出につながる。
 ああ、それにしても遅すぎた…。

タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 22:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 巨匠たちの素顔

ベルリン・フィル

 いま、ベルリン・フィルが来日している(5月11日?15日、サントリーホール)。
 今日は、2日目の公演を聴きに出かけた。
 今回のプログラムはオール・ベートーヴェン。交響曲全9曲を5夜連続で演奏するという、画期的な内容である。
 今日は前半が「レオノーレ」序曲第1番と交響曲第2番、後半が交響曲第5番「運命」である。
 サイモン・ラトルは、2013年、ベルリン・フィル首席指揮者を2018年契約満了にて退任することを発表した。2017年9月からはロンドン交響楽団の音楽監督に就任する予定になっている。
 ラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェンは、すでに交響曲全集がリリースされているが、ツィクルスも昨秋からパリ、ウィーン、ニューヨークで行われ、いよいよ東京が最終地となる。
 今夜の「運命」は、息詰まるような熱気に包まれた演奏だった。ラトルのベートーヴェンに対する敬愛の念が全編に宿り、長年に渡る楽譜の研究の成果が表れ、説得力のある斬新で前向きな「運命」となった。
 ラトルはプログラムのなかのインタビューで、ベーレンライター版を使用していること、ベートーヴェンのテンポに関して、曲による楽員数の違い、教育プログラムのこと、新イースター音楽祭の創設、新たな取り組みとして注目されているデジタル・コンサートホールに関してなど、多岐に渡る話をしている。
 2011年の11月15日の「インタビュー・アーカイヴ」に以前ラトルに行ったインタビューを掲載しているので、興味のある人は見てくださいね。
 今日の写真は、ベルリン・フィルのプログラムの一部。コンサートから戻ってたまっていた仕事をすべて片付け、メールの返事を次々に送り、原稿の校正を見ていたら、あっというまに時間が過ぎてしまった。
 明日はフルートのエマニュエル・パユにインタビューすることになっている。またその様子をお伝えしま?す。


タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 23:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 巨匠たちの素顔
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