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ネルソン・ゲルナー

 2022年11月19日のブログで綴った、ネルソン・ゲルナーのリサイタルが、1月15日に浜離宮朝日ホールで開催された。
 このプログラムノートも書いたため、前半のショパン:4つのバラード、後半のリストのピアノ・ソナタ ロ短調という選曲は、とても楽しみにしていた。
 ピアニストは第1音から聴き手を引き付け、その磨き抜かれたテクニックと深い表現力で最後まで魅了する人が時折登場するが、ゲルナーはまさにバラード第1番の冒頭から「ただものではない」という稀有なピアニズムを披露した。
 ひとつひとつの響きがあるべき姿で存在し、心の奥深く浸透してくる。
 1音たりともおろそかにせず、緊迫感はみなぎっているのだが、けっして堅苦しくない。音楽はごく自然に流れ、しかも説得力があり、これまで聴いたどのショパンとも異なっていた。
 とりわけ胸の奥にずっしりと響いてきたのは、バラード第4番。ピアニストにインタビューすると、ほとんどの人が「バラードのなかで第4番がもっとも難しい」と語る。
 その難しさをみじんも感じさせず、作品の偉大さを前面に押し出す奏法で、バラードの異なる面を見る思いがした。
 後半のリストのロ短調ソナタは、ゲルナーの自家薬籠中の作品。単一楽章の長大で、壮大で、気高さも備え、ピアニストの資質がすべて現れてしまうこのソナタを、ゲルナーはカデンツァの反復や主題の移り変わり、フガート風の展開などを実にこまやかに成熟した音色で弾き込み、リストの偉大さを知らしめた。
 この後がまた大変。鳴りやまぬ拍手に応え、アンコールは4曲も続いた。しかも珍しい作品も登場。
 パデレフスキ、リスト、カルロス・グァスタヴィーノの作品に続き、最後はエヴラー:ヨハン・シュトラウスの《美しく青きドナウ》に基づく演奏会用アラベスク。これがゲルナーでないと弾けないと思わせる超絶技巧で、音数の多さがハンパではなく、会場はやんやの拍手喝采となった。
 ネルソン・ゲルナー、すばらしく充実したピアニストですゾ。聴き逃した人は、次回はぜひナマの体験を。ちょっとやそっとのストレスは吹き飛び、心が温かくなり、ピアノを聴く歓びに満たされます!
posted by 伊熊よし子 at 22:24 | マイ・フェイバリット・ピアニスト

ピエール=ロラン・エマール

 今日は、東京オペラシティコンサートホールに、ピエール=ロラン・エマールのリサイタルを聴きに行った。
 以前、「モーストリー・クラシック」の「私のお薦めコンサート」に、下記のような記事を寄せた。

最近はベテラン・ピアニストの来日も相次ぎ、ピアノファンは心豊かな至福の時を過ごせる。エマールはメシアンを得意とし、「鳥のカタログ」でその真価を発揮する。彼は12歳の時にメシアンに会った。「メシアンから得たことはことばにできないくらい大きく深く貴重です。正確無比で限りない創造性、精神性の高い音楽は私の糧となっています」と語る。その深き思いを演奏至難な「鳥のカログ」に託す。

 今日の「鳥のカタログ」は、2回の休憩をはさみ、60分、30分、60分という長時間に渡り、全曲演奏が行われた。
 エマールは2018年に「鳥のカタログ」の録音をリリースしている。メシアン演奏の第一人者と称される彼の演奏は、作品にひたすら寄り添い、自身の存在を消すかのような、メシアンへの深い敬意を表す演奏に徹していた。
 来日ピアニストの演奏が続くなか、今後はクンウー・パイク、イゴール・レヴィット、アレクサンドル・メルニコフ、マルティン・ヘルムヒェン、パスカル・ロジェ、ゲルハルト・オピッツ、ヴァレリー・アファナシエフ、マリア・ジョアン・ピリス、エリソ・ヴィルサラーゼ、マルタ・アルゲリッチ、サー・アンドラーシュ・シフ、内田光子、シャルル・リシャール=アムラン、ラン・ランと続く。ピアノファンにはたまらない秋〜冬となりそうだ。


posted by 伊熊よし子 at 22:18 | マイ・フェイバリット・ピアニスト

ダン・タイ・ソン

 昨日、銀座のヤマハホールにダン・タイ・ソンのリサイタルを聴きに行った。
 思えば、1980年のショパン・コンクール優勝時から彼の演奏は聴き続け、来日公演のたびにインタビューを行い、単行本も書き、長年にわたって演奏を聴き続けている。
 この日のプログラムは、前半がラヴェルとドビュッシーとフランク。後半がオール・ショパンという構成。
 いずれの作品も、巨匠の域に入った熟成した演奏で、長年聴き続けている私は感慨深い。
 ダン・タイ・ソンは、後進の指導にも重きを置いていて、昨年のショパン・コンクールの覇者、ブルース・リウは愛弟子である。
 この優勝により、恩師と弟子の両方がショパン・コンクールで大きな結果を残したことになる。
 いまはなかなか楽屋に行って話をすることができないが、次回ダン・タイ・ソンにインタビューする機会があったら、弟子への指導の方法や極意を聞きたいと思っている。
 今回の演奏でとりわけ心に残ったのは、ショパンのポロネーズ、マズルカ、ワルツ、エコセーズ、タランテラと、作曲家が作品に取り入れた民族色豊かな舞踊のリズムを選曲したこと。
 すべてが磨き抜かれ、鍛えられ、究極の美しさを放ち、ショパン弾きならではのリズム表現だった。
 この公演評は、「モーストリー・クラシック」に書く予定である。
 ヤマハホールの親密な会場で聴く、心温まるひとときとなった。

posted by 伊熊よし子 at 22:16 | マイ・フェイバリット・ピアニスト
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