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クラウス・フロリアン・フォークト

 なんとすばらしい、至福のときだろうか。
 今日は、「東京・春・音楽祭」の歌曲シリーズVol.23 クラウス・フロリアン・フォークト(テノール)のリートを聴きに東京文化会館小ホールに出かけた。
 一昨年の6月、この同じホールでフォークトがうたうシューベルトの「美しき水車小屋の娘」を聴き、そのときのブログには下記のように綴った。それとまったく同様の思いを今回も抱いた。

 約70分、幻想的で内的エネルギーに満ちた想像性に富む歌声を全身にまとい、別世界で浮遊していた。
 なんという幸せな時間だろうか。
 こういう瞬間を「至福のとき」と表現するのだろう。
 今日は、東京文化会館小ホールに、クラウス・フロリアン・フォークトのうたうシューベルトの「美しき水車屋の娘」を聴きにいった。
 彼は新国立劇場で「ローエングリン」をうたっていたが、今日はリートである。しかも、小ホールというぜいたくな空間でのリート・リサイタル。
 すぐそばでフォークトがうたっていると、臨場感あふれ、こまやかな息遣いまで聴こえ、ともに呼吸をしているような感覚に陥る。
 いつもはオペラの舞台衣裳を身に付けているためわかりにくいが、ノーネクタイの白いシャツに光沢のある上着をはおっている服装だと、分厚い胸から繰り出す呼吸がリアルに伝わってくる。
 先日、オーボエのモーリス・ブルグと若尾圭介のインタビューにおいて、「音楽家に大切なのは呼吸法」という話で盛り上がったが、まさに歌手はこれに尽きる。
 フォークトのブレスは、からだが微動だにしない。完璧なる呼吸法がなされていて、どんなに強いパッセージや長い旋律をうたうときも、ブレスはいつ行っているのだろうと思うほど自然である。
 しかも、ひとり芝居のように歌詞の内容に合わせて抑制された演技を加え、豊かな声量を絶妙にコントロールし、詩と音楽の融合を図る。
 まさに、繊細で精確で完璧なるブレスが必要となる。
 シューベルトの美しい旋律が、フォークトの声にかかると立体感を帯び、創造力を喚起し、ホールの隅々まで水車屋の空気で満たされていく。
 以前の来日時にインタビューしたとき、とてもラフな格好でにこやかな笑みをたたえ、ごく自然な感じで現れたが、今日も終演後は人あたりのいい笑顔を見せた。
 オペラ歌手のうたうリートは、本当に印象深い。彼の高音は非常に強靭で輝かしく張りがあり、小ホールの空気を揺るがすほどだった。
 ピアノは息の合ったヨブスト・シュナイデラート。オペラのコレペティトールやバイロイトのマスタークラスのピアノを担当しているピアニストで、フォークトのオペラティックな歌唱にピタリと寄り添っていた。
 こういう魂が浄化するような歌声を聴いた日は、脳が活性化するためか、いつまでも眠くならない。
 テノールがうたう「美しき水車屋の娘」は、やはり最高である。曲の数々が、いつまでも頭から離れない…。

 今日のリート・リサイタルは、ハイドン、ブラームス、マーラー、R.シュトラウスが組まれた。マーラーの「さすらう若人の歌」も、心を吐露するような切々とした歌唱が胸に響いてきたが、とりわけ強く印象に残ったのは、R.シュトラウス。「ひそやかな誘い」「憩え、わが心」「献呈」「明日には!」「ツェチーリエ」が次々とひとり芝居のように、またオペラ・アリアのようにうたわれ、すばらしき歌声が心に染み込んできた。
 アンコールは、R.シュトラウス「セレナーデ」とブラームス「日曜の朝」。
 フォークトは、すべてのプログラムをうたい終え、鳴りやまぬ拍手に応え、「いつも日本ではすばらしい聴衆に出会えて幸せです。今日のみなさまも静かに聴いてくださり、本当に感謝しています」とステージから語りかけ、2曲のアンコールをしっとりと聴かせた。
 ああ、幸せ…。こういう時間を過ごすために、日々の仕事があるんだと思った。どんなに忙しくても、どんなに大変でも、こういうひとときがあれば、すべてのストレスや悩みは霧散していく。
 4月5日には、「ローエングリン」の演奏会形式を聴きに行く予定である。またまた、フォークトの魔力に酔いそう…。
posted by 伊熊よし子 at 23:51 | クラシックを愛す

ルノー・カプソン&児玉桃

 3月12日、トッパンホールにルノー・カプソン&児玉桃のデュオ・リサイタルを聴きに行った。実は、以前、同ホールが発行している「トッパンホールプレス」にふたりの演奏に対する原稿を寄せた。
 下記にその記事を掲載したいと思う。 

 フランスには国際舞台で活躍する器楽奏者が数多く存在するが、ヴァイオリンではルノー・カプソンが実力、人気ともにその代表格ではないだろうか。2015年1月には、パリに開館したフィルハーモニー・ド・パリのオープニングに招かれ、アンリ・デュティユーのヴァイオリン協奏曲を演奏するという栄誉に浴した。
 カプソンは1976年フランス生まれ。パリ高等音楽院卒業後、1997年から3年間はクラウディオ・アバドの招きにより、グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラのコンサートマスターを務めている。
「マエストロ・アバドは、この世でもっとも偉大な指揮者のひとりだと思います。彼は若い人たちといろんなことを分かち合う、共有することに意義を見出していました。若かった私もことばでは表現できないほど多くの影響を受けました。若い人と交流することで、彼自身も若々しさを保持し続けたのだと思います。いつも新鮮でみずみずしい演奏を心がけていましたから。若い才能が現れると、すぐに支援し、助言を与えていました。一番思い出に残っているのは、アバドがフレーズの果てしない広がりを伝授してくれたことです。長い息遣いをどのようにもっていくか、フレーズを形作る方法を教えてくれたことです。もうひとり、私が16歳のときに出会ったカルロ・マリア・ジュリーニからも大きな影響を受けています。マエストロ・ジュリーニからは、“ヴァイオリニストではなく、音楽家であれ”という姿勢を暗黙のうちに叩き込まれた気がします。彼は“人生の光は何か、それを音楽で表現せよ”といってくれました。アバドとジュリーニ、ふたりは私のあこがれの象徴です」
 カプソンは10代のころからオーギュスタン・デュメイ、トーマス・ブランディス、アイザック・スターンをはじめとする著名なヴァイオリニストに師事し、多くのことを得ている。モットーは「楽器を豊かにうたわせること」。いずれの作品でもその精神を存分に発揮する。音色はこよなく官能的で幻想的で多種多様な色彩が特徴。使用楽器は50年以上アイザック・スターンが愛用していた1737年製グァルネリ・デル・ジェス「パネット」。来日公演でも、この名器で情感あふれる歌を紡ぐ。
 児玉桃も偉大なピアニストから多くを学び、メシアンを中心に幅広いレパートリーを誇る実力派。メシアン・コンクールでは審査員も務め、創造性に富む録音も残している。
「メシアンは色彩が大切で、リズムも明確であり、ファンタジーあふれる演奏が要求されます。自分の考えをピアノを通してどれだけ聴衆に伝えることができるか。音が多いので、ついそれに気をとられがちですが、作曲家に対する思い、作品に対する思いを明快に表現することに集中し、その気持ちを聴いてくださるかたに伝える。それに尽きると思います」
 こう語る児玉桃はカプソンとは何度も共演を重ね、お互いの呼吸を呑み込んでいる。今回のオール・フランス・プロでは、粋で洒脱で薫り高いデュオが生まれるに違いない。

 ここに書いた通り、当日の演奏は、まさにフランスの薫りが匂い立つような馨しいデュオで、とりわけサン=サーンスのヴァイオリン・ソナタ第1番におけるカプソンの流麗で情感あふれる音色と作品の内奥に迫る解釈が際立ち、心奥に響いた。
 この公演評は、「公明新聞」に書く予定にしている。
posted by 伊熊よし子 at 22:24 | クラシックを愛す

三浦文彰&イタマール・ゴラン

 若手ヴァイオリニスト、三浦文彰は、演奏を聴くたびにぐんぐん成長していく。
 今日は、紀尾井ホールに「三浦文彰 リサイタル・ツアー2018」の一夜を聴きにいった。共演は、ヴァイオリストとの共演にはこの人、と定評のあるイタマール・ゴラン。
 この日本ツアーは2月24日から開始し、3月11日まで全国で12公演が組まれている。プログラムは2種類あり、今日はAプロで、前半にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第6番とブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、後半にR.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ変ホ長調が演奏された。
 三浦文彰の演奏は、つい先ごろも辻井伸行との共演を聴いたばかりだが、今日も冒頭から特有ののびやかで流麗な弦の響きが全開、そこに名手ゴランのピアノが加わると、上質なデュオが生まれ出る。
 とりわけ後半のR.シュトラウスのソナタが印象的で、三浦文彰の音楽は馨しい歌が横溢し、華麗で甘美。一方、ゴランのピアノはすこぶるオペラティック。特に第2楽章のアンダンテ・カンタービレの部分は、ピアノがR.シュトラウスならではの官能的で妖艶なオペラをうたい上げ、ヴァイオリンの華麗な響きをピアニスティックに装飾していった。
 なんと幻想的な世界だろうか。R.シュトラウスはいわゆる大人の音楽である。上質な旋律と滔々と流れるような粋なリズムに心が高揚していく。
 終演後、久しぶりにゴランに会い、「いやあ、しばらく〜」といわれた。
 今日の写真はツーショット。このふたり、本当に仲がいい。
 三浦文彰は、いつもヨーロッパにいくと、パリのゴランの家に泊めてもらい、そこから各地に演奏に出かけていくそうだ。

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posted by 伊熊よし子 at 23:54 | クラシックを愛す
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