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エリアス・ケッラー

 新たな才能との出会いは常に心が高揚するものだが、まだ11歳の“スーパーキッズピアニスト”となると、より強い感情が沸いてくる。
 思えば、キーシン、レーピン、ヴェンゲーロフの3人が出現してきたときは、世の中は大騒ぎだった。初来日のときの彼らの演奏は、まだ脳裏にしっかり焼き付いている。
 日本にも小林愛美や牛田智大という若き才能が登場し、ピアノ界は活性化したものだ。
 今日は、オーストリア出身のエリアス・ケッラー(2007年9月フィラッハ市生まれ)が初来日し、ドイツ文化センターでミニ・コンサートと記者会見を行った。
 プログラムはモーツァルト:メヌエット ト長調 KV1、モーツァルト:ピアノ・ソナタ第5番 ト長調 KV283より第1楽章、シューベルト:即興曲 Op.90-4 D899、ラフマニノフ:プレリュード 嬰ハ短調、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番 Op.2-1より第2楽章、リスト:リゴレット・パラフレーズ。
 まだ身長は日本の小学生とそう変わらないが、筋肉質でがっちりした体型。全体に指の力も強く、小指の力強さが際立っている。リズム感もよく、音楽が勢いに満ちている。
 今日の演奏のなかでは、ベートーヴェンのソナタの第2楽章がもっとも印象に残った。
 記者会見では、初来日の様子を聞かれ、「日本にはずっとあこがれていて、ぜひ訪れてみたいと思っていた。もっと小さな国だと思っていたけど、東京はものすごく大きな都市で、カッコいい。クールだ! 異なる文化に触れることができてうれしい。食事も、何を食べてもものすごくおいしい。もっといろんなところを見たいし、いろんな体験をしたい」と、興味津々。
 記者会見終了後には、インタビューをすることができた。
 エリアスはコンクール歴が豊かだが、音楽ばかりではなく数学コンクールでも入賞し、現在は飛び級で年長の子どもたちと一緒に学んでいる。
「もちろん学校にいってさまざまな科目を学ぶのは大切だけど、ぼくにとっては音楽の勉強が一番。いまは学校の勉強に疑問を感じることもあるよ。学校のない日は5時間くらいピアノの練習している。でも、いつもピアノの前にいるわけではなく、サッカーやスキーも大好き」と屈託がない。
 きちんと相手の目を見てしっかり自分の意見をいうタイプで、音楽についての話題となると、いっそう雄弁になる。
「ごく幼いころは、楽器を習うなんて考えられなかった。でも、ぼくは好奇心が旺盛で、いつも何かに取り組んでいないと満足しない性格。6歳になったときに両親の勧めでピアノを始めたら、この楽器のとりこになってしまったんだ。それからはずっとピアノひと筋。いつも曲を弾くときは自分なりのストーリーを描き、音楽のなかに入り込んでいく。好きなピアニストも多く、ソコロフ、アルゲリッチ、ブロンフマン、ポリーニをはじめ、いろんな人のピアノを聴く。いつの日か、ぼくもそうした人の心に響く音楽を奏でるピアニストになりたい。指揮も大好きで、作曲も学んでいる。将来は幅広いことができるピアニストになりたい」
 エリアスは、演奏姿勢がとても美しい。背筋がビシッと伸び、上半身は微動だにしない。
「1年前に先生が変わったんだけど、その先生が姿勢を直してくれた。いまは全身の脱力が自然にできて、とても弾きやすくなったんだよ」
 エリアスは2019年9月27日にサントリーホールのブルーローズにおいて、アンサンブルハーモニー・ウィーンとコンサートを行う予定になっている。
 また、詳細が決まったら、紹介しますね。
 今日の写真は、キュートな笑顔のエリアス。「夢は、世界中のホールで演奏できるピアニストになること」だそうだ。数年後にはぐっと身長が伸びて、声も低くなり、がっしりした青年のピアニストに変貌するのではないだろうか。演奏の成長がひたすら楽しみである。

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posted by 伊熊よし子 at 23:27 | アーティスト・クローズアップ

ベンヤミン・アップル

 男性歌手の場合、多くの人がテノール・ファンである。テノールはオペラでは主役であり、王子や恋人や善人の役を担う。
 しかし、私はバリトン・ファンである。オペラにおいては、バリトンはあまり主役を与えられていない。主人公の相手役や悪役や目立たない役が多い。
 ただし、ドイツ・リートでは、バリトンに向いた作品が多く書かれている。
 そのリートを得意とする新たな才能が登場した。1982年、ドイツ・レーゲンスブルク生まれのベンヤミン・アップルだ。レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊でうたい、ミュンヘン音楽演劇学校を経て、ギルドホール音楽演劇学校で学んだバリトンで、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの最後の弟子として知られる。
 アップルは2010年ロンドンに移り、2014年から次々に新人賞にあたるさまざまな賞を受賞。ドイツ・リートを中心にオペラにも出演し、2017年ソニー・クラシカルと専属契約を結んだ。
 デビュー・アルバムは「魂の故郷〜シューベルト→ブリテン歌曲集」。シューベルト、レーガー、ヴォルフ、ブラームス、R.シュトラウス、プーランク、ブリテン、グリーグなど多彩な歌曲をしっとりと抑制の効いた低音でうたい上げている。
 先日、ベンヤミン・アップルにインタビューし、そのアルバムのこと、これまでの経緯、恩師のこと、家族のこと、今後の活動についてなど、さまざまな話を聞いた。
 来日してから、会った人がみな驚くのは、彼の身長の高さ。なんと196センチの長身である。私はテニスが好きなので海外のテニス選手の身長の高さをいつも耳にしているが、「なるほど、196センチってこんなに大きいものなのね」と実感。ただし、スリムなため、ものすごく威圧感があるというわけではない。
 オペラ歌手というと立派な体格の人を思い浮かべるが、彼は特有の美意識があるらしく、太らないようにしているそうだ。
 とても感じがいい人で、話をしている間、ずっとインタビュアーの目をまっすぐに見ている。ジョークも好きらしく、歌手になる前の銀行勤務だったときのことをおもしろおかしく話してくれた。
 いまはリートをしっかりうたう歌手が少なくなってきたとのことで、「私は絶対にこの道を極めたい。フィッシャー=ディースカウの教えを忠実に守りながら、自分なりのリートを作り上げたい」と熱く語っていた。
 バロック作品や古典的なオペラにも意欲的で、第2弾のアルバムは「バッハ:アリア名曲集」。ピリオド楽器使用のコンチェルト・ケルンとの共演である。
 このインタビューは、次号の「日経新聞」に書く予定である。
 ベンヤミンはこの日、新品の真っ白な革のスニーカーを履いていた。
「これ、日本にくるから特別に買ったんだよ。だって、メーカーはAXEL ARIGATOっていうんだもの」といった。アクセル・アリガトウ?? 早速、レコード会社の担当者のKさんが調べると、ありました、この名前が。ありがとうなんて、初めて知ったワ。ベンヤミンは「ねっ、あるでしょう、それだよ」とにやにやしていた。
 新たなバリトンの登場は、声楽界を活性化してくれる。彼は10月1日「NHK音楽祭」(NHKホール)でパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団と共演し、オルフ「カルミナ・プラーナ」に出演。12月2日には大阪城ホールで「サントリー1万人の第九」の第1部に出演する予定だ(佐渡裕指揮、マーラー:リュッケルト歌曲集、バーンスタイン:ウエスト・サイド・ストーリー、キャンディードから)
 今日の写真は、インタビュー後のショット。「靴も写してね」といわれたため、1枚はありがとうのスニーカーを入れ、もう1枚は背の高さを表すため、ドーンと全身を入れました。とにかくデ、デカイ。 

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posted by 伊熊よし子 at 22:24 | アーティスト・クローズアップ

藤木大地

 カウンターテナーの藤木大地の名は、2017年4月、アリベルト・ライマンがウィーン国立歌劇場のために作曲し、2010年世界初演された「メデア」のヘロルド役でデビューしたことで一躍広く知られるところとなった。
 このセンセーショナルなデビューは、日本人および東洋人のカウンターテナーとして史上初の快挙で、新聞で絶賛された。
 藤木大地は長年ウィーンに住み、ウィーン国立歌劇場の舞台に立ち、バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを披露している。
 彼は10月24日、「愛のよろこびは」と題したCDでワーナー・ミュージック・ジャパンよりメジャー・デビュー・アルバムをリリースする。このアルバムにはカッチーニやシューベルトの「アヴェ・マリア」、シューマンの「献呈」、リストの「それはすばらしい」、アーンの「クロリスに」からマルティーニの「愛のよろこびは」(村上春樹原作の映画「ハナレイ・ベイ」主題歌)まで、美しい旋律に彩られた16曲が収録されている。
 特筆すべきは共演のピアニストで、40年以上に渡り、世界中の偉大な歌手たちと共演を重ねてきたマーティン・カッツが担当している。藤木大地は以前からカッツの教えを受け、現在は先生と生徒ではなく、パートナーとして音楽と対峙し、録音でもよき共演者として高みを目指したという。
 今日は藤木大地にインタビューし、その録音のこと、カウンターテナーのレパートリーのこと、ウィーン国立歌劇場のオーディションのこと、子どものころからの音楽に対する考えなど、さまざまなことを聞いた。
 このインタビューは、「東京新聞」の連載コラムに書く予定である。
 いろんな話のなかで盛り上がったのが、からだを鍛える話。ホットヨガをしているそうで、とても代謝がよくなるそうだ。私も勧められてしまった。
 代謝がよくなるのか、う〜ん、そのひとこと、魅力的よねえ(笑)。物書きの仕事はものすごく代謝が悪くなり、いつもからだがバリバリだもんね。なんでも、風邪をひかなくなったという。
 藤木大地の声は透明感があり、のびやかで情感豊か。とても自然で、ぜひナマの声を聴きたくなる。
 12月18日には、紀尾井ホールでCDデビュー記念のリサイタルが行われる。収録曲が目一杯披露される予定。ぜひ、聴きに行かなくっちゃ。
 今日の写真は、インタビュー後のワンショット。

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posted by 伊熊よし子 at 23:30 | アーティスト・クローズアップ
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