2021年01月13日
ジュスタン・テイラー
チェンバロ好きの私が、今夜は真にすばらしい才能に触れたため、いまはあったかい気持ちでいっぱいである。
フランスの若手チェンバリスト、ジュスタン・テイラーは、2015年に23歳の若さでブルージュ国際古楽コンクール・チェンバロ部門で優勝し、17年にもロワール国際古楽コンクールの覇者となっている。
ジュスタン・テイラーは、コロナ禍で昨年の公演が延期していたが、ようやく今年の1月に開催の運びとなった。彼は12月21日にフランスを出発して来日し、隔離期間を経て日本デビュー公演にこぎつけた。
今日は王子ホールでJ.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」の演奏が行われたわけだが、これがもうすこぶる上質で躍動感に満ちたみずみずしい演奏。これまでチェンバロやピアノで数えきれないほど「ゴルトベルク変奏曲」を聴いてきたが、そのどれとも異なる生き生きとした個性的な演奏で、深い感銘を受けた。
とりわけ2段チェンバロの上下の鍵盤の使い分け、リュートストップの使用法が考えられており、さらに装飾音の取り入れ方が絶妙。すべてが自然で、流れる水のごとし。
もっとも心に響いたのは最後のアリア。いつもこのアリアが現れると、「ああ、これで長い旅が終わる」と思い、さらに旅は続くという感覚にとらわれるのだが、テイラーのアリアは、まったく様相が異なっていた。
彼は繰り返しの部分を上の鍵盤で奏で、まったく装飾音を入れず、素のままの音楽で勝負したのである。
やがて上下の鍵盤で装飾音が登場したが、そのコントラストの見事さ。あまりにも美しく上質な響きで、終わるまでドキドキしてしまった。
この公演評は、「公明新聞」に書く予定である。
今日の写真は、プログラムの表紙。すぐにまた来日してほしいと、強く願わずにはいられない。
posted by 伊熊よし子 at 22:46
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