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クラウス・マケラの時代がやってきた!

 ライジングスターの登場には心が高揚し、胸の鼓動が速くなるほどだ。
 いま来日中のクラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団の演奏は、まさに聴き手の心身を異次元の世界へと運んでくれるもの。
 昨日は、サントリーホールでマケラ指揮パリ管のコンサートを聴いた。
 プログラムはドビュッシーの交響詩「海」、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調、ストラヴィンスキーの「火の鳥」。ラヴェルのソリストはアリス=紗良・オットである。
 マケラは、ステージに登場する姿から美しい。スリムな長身をセンスのいいスーツに包み、走るようにして指揮台へと歩みを進める。そして深々とおじぎをしたかと思うと、一気にオーケストラのもてる力を最大限発揮できるよう、全身全霊を傾けて作品へと没入していく。
 「海」では弦楽器の弱音の美しさと木管、金管の柔軟性に富んだ音色が際立ち、指揮者とオーケストラとの密度濃いコミュニケーションが前面に押し出されていく。
 ラヴェルのピアノ協奏曲では、アリスがいつものように裸足で走り込んできて、マケラとの相性ピッタリ。
 彼女は、演奏前にステージ上から聴衆に向かって話をした。それによると、一昨日ミュンヘンから東京に着いたのだが、ロストバゲージに遭ってしまい、スーツケースはまだミュンヘンにあるという。そこでステージ衣裳を買いに行ったのだが、なかなが見つからず、「今夜のスカートはオケのメンバーから借りました」とのこと。
 私も海外出張で何度かロストバゲージに遭っているため、その大変さはよくわかる。
 でも、アリスの演奏はみずみずしくクリアな響きで、ラヴェルの本質に迫るピアニズムだった。
 後半は「火の鳥」。これこそマケラとパリ管の絆を示す演奏で、序奏からフィナーレに至るまで、一瞬たりとも弛緩しない演奏に聴き手も集中力を要求され、作品の内奥へと運ばれた。
 クラウス・マケラは1996年1月フィンランドのヘルシンキ生まれ。10代のころから指揮とチェロの演奏でめきめきと頭角を現し、各地のオーケストラの首席指揮者や要職に就き、現在はパリ管の音楽監督を務めている。
 オスロ・フィルの首席指揮者兼アーティスティック・アドヴァイザーも務めており、来日記念盤としてシベリウスの交響曲第2番&第5番がリリースされた(ユニバーサル)。
 最近は仕事上のストレスがたまり、どうにもならない状態が続いていたが、昨日のマケラの躍動感あふれ、前進するエネルギーに満ちた演奏に全身が包まれると、不思議なくらいにストレスが霧散していった。
 この年齢ですでにカリスマ性を備えているマケラは、世界のオーケストラから引っ張りだこの人気だ。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、2027年から第8代首席指揮者に迎えると発表。彼は伝統と歴史を備えたヨーロッパのオーケストラに、新風を吹き込む。まさに「クラウス・マケラの時代がやってきた!」という感を強くする。
 来日公演はまだ続き、20日愛知県芸術劇場コンサートホール、21日岡山シンフォニーホール、23日フェスティバルホールが予定されている。
 ストレスにさらされている人は耳を傾けてほしい。ナマを聴くことができない場合は、録音でぜひ。

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posted by 伊熊よし子 at 14:46 | クラシックを愛す
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