2021年07月15日
辻井伸行
昨日は、辻井伸行「プレミアム・リサイタル2021 ショパン:エチュード」の最終公演を聴きに、紀尾井ホールに出かけた。
プログラムは「3つの新エチュード」からスタート。前半はエチュード作品10の12曲が演奏され、後半はエチュード作品25の12曲が演奏された。
コロナ禍で、アーティストはコンサートがほとんどなくなり、ひたすら練習していると聞いているが、辻井伸行のこの日の演奏も、その練習量のすごさを物語っていた。
ショパン・コンクール当時から演奏を聴き続けている私は、新エチュードの最初の曲を聴いた瞬間から、辻井さんの音楽が大きな変貌を遂げたことに驚きを隠せなかった。
そのピアニズムは深遠さと思慮深さと内省的な情熱を放ち、練習量の多さがびしびしと伝わってきたからである。
ピアニストは、どのジャンルの音楽家よりも練習量が多いといわれる。音符の数が多く、ほとんど暗譜で弾かなくてはならないからである。
辻井さんのショパンのエチュードは、すさまじいまでの集中力と作品に対する熱き思いが凝縮したものだったが、けっして力んだり、気負ったりしていない。とても自然で、内面から湧き出てくるショパンへの愛にあふれていた。
私はこのところ仕事の忙しさとストレスから体調があまりよくなく、体力が落ちていたのだが、辻井さんのエチュードを聴き、からだの奥から力が湧いてくるのを感じた。
「ああ、こんなにも練習を積み、すばらしい音楽を披露してくれる。私も頑張らなくちゃ」という気持ちにさせられた。
すぐそばの席に辻井さんのお父さまがすわっていらっしゃり、あいさつを交わした。お父さまは、いつも私のブログを読んでくださるそうだ。
私が「辻井さん、最近の練習量はハンパではないでしょう」と話すと、「ええ、かなり時間をかけて、一生懸命練習しています。ウチではその勤勉さをたとえて、二宮金次郎の”金ちゃん”と呼んでいるんですよ」と話してくれた。
これには大笑い。遊び心いっぱいの、プライヴェートな話を聞いてしまった。
今度、辻井さんに会ったら、「金ちゃん」と呼んでみようかな(笑)。
この公演評は、次号の「音楽の友」に書く予定になっている。書きたいことが山ほどある、実り多きリサイタルだった。
posted by 伊熊よし子 at 16:43
| マイ・フェイバリット・ピアニスト