2020年06月25日
ハヴィエル・ペリアネス
つい先ごろ、スペインのピアニスト、ハヴィエル・ペリアネスの新譜が2枚リリースされた(キングインターナショナル)。ヴィオラのタベア・ツィマーマンとの「カンティレーナ」(ピアソラ、モンサルバーチェ、ファリャ、ヴィラ=ロボス、カザルス、グラナドス、アルベニス)と、ジョゼプ・ポンス指揮パリ管との「ラヴェル:鏡遊び〜管弦楽およびピアノ作品集」である。
ペリアネスには何度かインタビューしたことがあるが、今回は「インタビュー・アーカイヴ」の第81回として彼のことばを紹介したい。
「イントキシケイト」2013年7月
[スペイン音楽は小さなアクセントが冒頭につく]
スペインのピアニスト、ハヴィエル・ペリアネスの名は、バレンボイムが行ったテレビのマスタークラス「バレンボイム・オン・ベートーヴェン」の生徒のひとりに選ばれたことで、一躍知られるところとなった。
「バレンボイムはベートーヴェンの生まれ変わりのような気持ちで演奏に臨む。その姿勢に圧倒され、触発されました。彼は私に“あなたの目の前にある太い道を歩みなさい”ということばを贈ってくれました。私は恩師に恵まれ、ラローチャやグードからも多くを学び、モンポウ未亡人にも会って曲の裏側に潜む内容を教えてもらいました。ファリャも大好きで、フランスの影響が色濃く反映されている面に惹かれ、洗練されたフラメンコのようなところにも魅了されます」
ペリアネスのピアノは、繊細で内省的で思索的。弱音の美しさが際立ち、「静なる響き」が全編を覆う。
これまでモンポウ、シューベルト、ファリャ、ベートーヴェンと多岐にわたる作品で高い評価を得てきた。
「私は自分のペースを守り、レパートリーをじっくりと広げてきました。ひとつの作品に時間をかけるタイプですので。ファリャの交響的印象『スペインの庭の夜』をはじめとする代表的なピアノ作品を録音したときも、グラナダのファリャの家にあるアーカイヴで手稿譜を調べ、指揮者のジュゼップ・ポンスとファリャ本来の意図を探求しました。ファリャは多分にストイックでシャイで厳格な性格と思われていますが、作品は情熱的で明るく光輝いています。その対比が非常に興味深く、私の心を魅了してやまないのです」
ペリアネスは1750年セビリア生まれの作曲家、マヌエル・ブラスコ・デ・ネブラのあまり演奏されないソナタにも注目し、貴重な録音を残している。
「ネブラのソナタは6曲あり、静的で即興性に満ちています。彼は大聖堂のオルガニストを務め、鍵盤作品を多く書き、ミステリアスな部分も多い。弾いていると謎めいた気分になり、そこが魅惑的なのです」
最新録音はベートーヴェンの「テンペスト」などのソナタ集。満を持して取り組んだベートーヴェンだ。
「ベートーヴェンは私のレパートリーの核となる部分です。これまでベートーヴェンのピアノ協奏曲もさまざまな指揮者と共演し、そのつど多くのことを学んできました。私はいつも練習するときは必ずうたいながらピアノを弾きます。自分がうたえなかったら、そのテンポは無理だということ。ベートーヴェンもロマンあふれる旋律をうたいながら極めていきます」
彼はスペイン音楽のリズムを手拍子、歌などで表現してくれた。小さなアクセントが冒頭につき、それが理解できるとスペイン作品の真髄がわかるそうだ。
実は、ペリアネスにはひとつ思い出深いできごとがある。インタビューのときに私が履いていたテストーニの真っ赤なミュールに目を止め、「きみ、それどこで買ったの? 奥さんに買って帰りたいんだけど…」と彼にいわれたのである。それは香港返還の前年に買ったもので、もうかなり履き込んでいるものだった。日本で買ったものではないと知り、ペリアネスはたいそうがっがりしていた。
インタビューが終わってからも、「香港のテストーニか。ヨーロッパにはないだろうねえ」といいながら、私の足元をずっと見ていた。
今日の写真は、新譜の2枚。また、古いミュールを出してきて履こうかな(笑)。