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ヴィキングル・オラフソン

  新たな才能との出会いは、本当に心躍るものがある。
  アイスランドのピアニスト、ヴィキングル・オラフソンに関しては、12月4日のリサイタルの感想も綴ったが、昨日のコンサートもまた彼の才能を遺憾なく発揮するものだった。
  プログラムはJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」のアリアからスタート。次いでバッハに関するトークが挟まれ、バッハの「イタリア風アリアと変奏」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番が続けて演奏された。
  このベートーヴェンのソナタが、これまで聴いたどんな演奏とも異なる表現で、この1曲を聴くためにこの日すみだトリフォニーホールまで足を運んだとしても、十分に満足する内容だった。
  後半は新日本フィルを弾き振りしてモーツァルトのピアノ協奏曲第24番が演奏されたが、ヴィキングルの指揮はなかなか堂に入ったもので、めりはりがあり、瞬時にピアノに移ってもけっしてぶれないその奏法は、限りなく豊かな才能を示唆していた。
  そこでインタビュー・アーカイヴ第80回は、ヴィキングル・オラフソンの登場だ。つい先ごろ発売された「ぶらあぼ」の記事である。

「ぶらあぼ」 2019年11月号

アイスランド出身の”革命児”がこだわりぬいたプログラムで新風を吹き込む

 世界中から熱い視線を浴び、いまや次世代のピアニストとして大きな注目を浴びているアイスランド出身のヴィキングル・オラフソンが、12月に待望のリサイタルを行う。プログラムはラモーとドビュッシーの作品、それにムソルグスキー「展覧会の絵」というこだわりの選曲。その意図を聞いてみると…。

「これらの作品は、2020年にリリース予定の新しいアルバムに収録されているものです。今回は珍しい構成にしたいと考え、150年の時を隔てて生きた偉大なラモーとドビュッシーの対話を意図しています。ラモーの作品が出版される際、それをドビュッシーが手伝ったといわれているからです。ふたりはルールを破ることを得意としていましたので、私もラモーの組曲において楽章の順番を入れ替えたり、省略したりしています。ドビュッシーに関しても、深いバロックのルーツが現れる選曲を心がけています」

 ムソルグスキー「展覧会の絵」に関しては、楽譜通りに弾くことをモットーとしている。

「この作品に関してはその説得力と力強さを大切にしているからです。私は昔からいろんな演奏家の音楽を聴くのが好きですが、《展覧会の絵》においてはスヴャトスラフ・リヒテルの1950年代のカーネギー・ホール・ライヴが鮮烈で強烈な印象を受けました。あたかも各々の絵に命が吹き込まれているようです。もうひとり、ウィリアム・カペルの演奏もひとつずつの音に電流に似たものが宿っています。私がジュリアード音楽院で師事したジェローム・ロウェントホールはカペルが悲劇的な事故によって亡くなる前、彼と一緒に学んだ数少ない人間のひとりなんですよ」

 ヴィキングルは国際コンクールの出身者ではない。2016年にドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、「フィリップ・グラス:ピアノ・ワークス」で鮮烈なデビュー。次いで「バッハ・カレイドスコープ」を世に送り出し、「ずば抜けた才能」と新聞・雑誌で称賛された。

「アイスランドではコンクールはありません。ジュリアード音楽院で学ぶようになり、すべてがコンクール中心であることに衝撃を受けました。在学中はレパートリーを探求することに時間をかけ、2008年に卒業してからはコンサートや創造的な仕事を通じて自分の音楽を手探りで見つけてきました。やがてアイスランドで自分のレーベルを立ち上げて録音活動を行い、音楽祭なども創設しました。その後、幸運なことにドイツ・グラモフォンと仕事をすることができるようになったのです」

 ヴィキングルの演奏は初めて聴いた人に衝撃を与え、聴き慣れた作品でも新たな発見を促し、音楽を聴く真の喜びを目覚めさせる。彼は「革命児」と呼ばれるように、それぞれの作品に新風を吹き込み、洞察力の深さで勝負する。レパートリーはバロックから近・現代まで幅広く、現代作品にも積極的に向き合う。

「今後はジョン・アダムスの新しいピアノ協奏曲第2番を本人の指揮により、欧米各地で演奏します。フィンランドの作曲家サウリ・ジノヴィエフの新しいピアノ協奏曲もフィンランドとスウェーデンの放送交響楽団とともに初演します。もちろん2020年にはバッハからシューマンまで多岐に渡るコンチェルトも演奏する予定です。私は100パーセント自分が全力で取り組むことができ、責任をもつことができる作品しか演奏しません。というのは、自分が深く信じることができ、これまでなかった解釈を表現することができる音楽を選ぶという意味です。それがとても重要で、ひとつひとつの音に信念がこもっているか否かは、おのずと聴衆に伝わってしまうからです」

 アイスランドでは家族に共通した「名字」がなく、彼の名前はヴィキングル、名字にあたるオラフソンは父がオラファーだからだという。

「アイスランド特有の法則でしょうね。でも、家族のつながりはとても強いですよ」

 アイスランドから世界の舞台へと飛翔した逸材、ぜひナマの演奏で新たな衝撃を。



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posted by 伊熊よし子 at 22:05 | インタビュー・アーカイヴ
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