2019年07月18日
ベアトリーチェ・ヴェネツィ
女性が指揮者になるのは、21世紀の現在でも、とても険しい道である。
しかし、イタリア出身の若手指揮者、ベアトリーチエ・ヴェネツィはその高い壁をホップ・ステップ・ジャンプという形で見事に乗り越え、現在はイタリア・プッチーニ音楽祭首席客演指揮者、エレバン・アルメニア国立交響楽団副指揮者、ナポリ・オーケストラ・スカルラッティ・ヤング首席指揮者を務めている。
そんなヴェネツィが、7月12日・13日新日本フィルハーモニー交響楽団のルビー〈アフタヌーン・コンサート・シリーズ〉の指揮台に立った。
プログラムは、ニーノ・ロータの組曲「道」より抜粋、ヒナステラのハープ協奏曲(ソロは吉野直子)、ファリャのバレエ音楽「三角帽子」全曲(ソロはメゾ・ソプラノの池田香織)という構成。
ヴェネツィはたいていの女性指揮者がパンツスーツで登場するのに対し、ロングドレスで現れ、情熱的で躍動感あふれるタクトさばきを披露した。
終演後、楽屋でインタビューを行った。
オフステージでも、おしゃれなコットンのワンピースを着用し、「私は男性指揮者に負けまいと、自分を押し殺すようなことはしないの。あるがままの姿で指揮をしたい。だからドレスを着てステージに立つのよ」といっていた。
ヴェネツィはプッチーニの生家のあるルッカ出身。私もルッカを訪ねたことがあるため、しばしプッチーニ談義となった。10月にはプッチーニのアルバムでデビューすることが決まっている(ワーナー)。
彼女にとって、プッチーニはあこがれであり、尊敬の対象であり、彼の音楽は血となり肉となっているようだ。プッチーニの作品について語るとき、ヴェネツィの表情は明るく輝き、目の光が増すからだ。
もちろん、女性が指揮者になることの難しさも十分に熟知しており、だからこそ頑張らなくてはならないと力を込めて語った。
このインタビューは、「intoxicate」に書く予定になっている。
実は、いまイタリアは文化的な予算が大幅に削られていて、クラシック音楽に関しても、オペラもオーケストラも存続が危ぶまれている危機的な状態だという。
「だからこそ、私は自分にできることは何でもやるの。私たちの世代が何とか道を拓いていかないと、ひどい状態になると思うわ。イタリアの音楽の伝統が失われてしまうことになりかねない」
ヴェネツィは1990年生まれ。まだまだ若い指揮者である。しかし、現状を打破しようという気持ちはだれにも負けない。こういう人は、陰ながら応援したくなる。
また、新譜がリリースされたときに、改めてその音楽について紹介したい。
今日の写真は、インタビュー中のワンショット。話すときに顔の表情が幾重にも変化し、まるでオペラ歌手のようだ。
posted by 伊熊よし子 at 22:53
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