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ベンヤミン・アップル

 男性歌手の場合、多くの人がテノール・ファンである。テノールはオペラでは主役であり、王子や恋人や善人の役を担う。
 しかし、私はバリトン・ファンである。オペラにおいては、バリトンはあまり主役を与えられていない。主人公の相手役や悪役や目立たない役が多い。
 ただし、ドイツ・リートでは、バリトンに向いた作品が多く書かれている。
 そのリートを得意とする新たな才能が登場した。1982年、ドイツ・レーゲンスブルク生まれのベンヤミン・アップルだ。レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊でうたい、ミュンヘン音楽演劇学校を経て、ギルドホール音楽演劇学校で学んだバリトンで、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの最後の弟子として知られる。
 アップルは2010年ロンドンに移り、2014年から次々に新人賞にあたるさまざまな賞を受賞。ドイツ・リートを中心にオペラにも出演し、2017年ソニー・クラシカルと専属契約を結んだ。
 デビュー・アルバムは「魂の故郷〜シューベルト→ブリテン歌曲集」。シューベルト、レーガー、ヴォルフ、ブラームス、R.シュトラウス、プーランク、ブリテン、グリーグなど多彩な歌曲をしっとりと抑制の効いた低音でうたい上げている。
 先日、ベンヤミン・アップルにインタビューし、そのアルバムのこと、これまでの経緯、恩師のこと、家族のこと、今後の活動についてなど、さまざまな話を聞いた。
 来日してから、会った人がみな驚くのは、彼の身長の高さ。なんと196センチの長身である。私はテニスが好きなので海外のテニス選手の身長の高さをいつも耳にしているが、「なるほど、196センチってこんなに大きいものなのね」と実感。ただし、スリムなため、ものすごく威圧感があるというわけではない。
 オペラ歌手というと立派な体格の人を思い浮かべるが、彼は特有の美意識があるらしく、太らないようにしているそうだ。
 とても感じがいい人で、話をしている間、ずっとインタビュアーの目をまっすぐに見ている。ジョークも好きらしく、歌手になる前の銀行勤務だったときのことをおもしろおかしく話してくれた。
 いまはリートをしっかりうたう歌手が少なくなってきたとのことで、「私は絶対にこの道を極めたい。フィッシャー=ディースカウの教えを忠実に守りながら、自分なりのリートを作り上げたい」と熱く語っていた。
 バロック作品や古典的なオペラにも意欲的で、第2弾のアルバムは「バッハ:アリア名曲集」。ピリオド楽器使用のコンチェルト・ケルンとの共演である。
 このインタビューは、次号の「日経新聞」に書く予定である。
 ベンヤミンはこの日、新品の真っ白な革のスニーカーを履いていた。
「これ、日本にくるから特別に買ったんだよ。だって、メーカーはAXEL ARIGATOっていうんだもの」といった。アクセル・アリガトウ?? 早速、レコード会社の担当者のKさんが調べると、ありました、この名前が。ありがとうなんて、初めて知ったワ。ベンヤミンは「ねっ、あるでしょう、それだよ」とにやにやしていた。
 新たなバリトンの登場は、声楽界を活性化してくれる。彼は10月1日「NHK音楽祭」(NHKホール)でパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団と共演し、オルフ「カルミナ・プラーナ」に出演。12月2日には大阪城ホールで「サントリー1万人の第九」の第1部に出演する予定だ(佐渡裕指揮、マーラー:リュッケルト歌曲集、バーンスタイン:ウエスト・サイド・ストーリー、キャンディードから)
 今日の写真は、インタビュー後のショット。「靴も写してね」といわれたため、1枚はありがとうのスニーカーを入れ、もう1枚は背の高さを表すため、ドーンと全身を入れました。とにかくデ、デカイ。 

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posted by 伊熊よし子 at 22:24 | アーティスト・クローズアップ
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