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メナヘム・プレスラー

 メナヘム・プレスラーの演奏を聴くと、自然に涙があふれてくる。
 彼の93年の人生がそのピアノには色濃く投影され、音楽ひと筋に生きてきた真摯な姿勢が、音楽からストレートに伝わってくるからである。
 昨日はサントリーホールでリサイタルがあり、ヘンデル、モーツァルト、ドビュッシー、ショパンの作品が演奏された。いずれも楽譜を置いての演奏で、前回の来日時よりも音量は小さくなったが、表現力はさらに深くなり、心に響くものだった。
 ステージに登場するときも去るときも、付き添いの女性が寄り添って一歩一歩杖をつきながらゆっくり歩き、しばし立ち止まっては聴衆の方を向き、感謝の意を表していた。
 実は、先日、サントリーホールに仕事にいった折、偶然プレスラーに楽屋口で会った。
「おお、しばらく。元気かい?」
 ああ、覚えていてくれたんだ。前回の来日時にインタビューをしたのだが、そのときに「また、すぐ会おうね」といってくれたものの、体調を崩して来日がキャンセルとなった。
 病気が癒え、今回の来日が可能になった。私は首を長くして、プレスラーの来日を待っていたのである。
 リサイタルは、滋味豊かで、ひとつひとつの音が心に染み入るものだったが、とりわけ最後のアンコールに登場したドビュッシーの「月の光」が秀逸だった。
 薫り高い弱音に終始し、色彩感豊かで、会場はひとつの音も聴き逃すまいと、シーンと静まりかえった。みんな涙腺がゆるくなったようだ。
 本当はインタビューをしたいのだが、体調を考えると無理かもしれない。ただ、ひたすら話を聞くことができるのを祈るばかりである。
 今日の写真は、終演後のワンショット。温かな目の光が忘れられない。

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posted by 伊熊よし子 at 23:35 | 巨匠たちの素顔
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