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マティアス・ゲルネ

[ヤマハWEB「音楽ジャーナリスト&ライターの眼」]2014年7月17日

[アーティストの本音トーク マティアス・ゲルネ ?]

 マティアス・ゲルネは自身が完璧主義者ゆえ、リートで共演するピアニストに対しても非常に要求が高い。実際に、ピアニストにはどんな演奏を希望するのだろうか。
「私はピアニストではないし、あまりピアノは上手ではないのですが、これまで数多くのすばらしいピアニストとの共演を重ねてきましたので、ピアノに対する理解は深まっています。テクニック面では何もいえませんが、結局、ピアノの技術というのはその人の内面がすべて現れるものだと思います。その内面と私の音楽に対する姿勢が、お互いに正しいものだと判断できれば、多くのことが可能になるわけです」
 ゲルネは2001年から2005年までデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽大学で名誉教授を務め、歌曲科で教鞭を執っていたこともあり、そのときにも声楽専攻の学生とともにピアノ専攻の学生による演奏も多数聴いている。そうした経験を踏まえ、ゲルネは「指導するときは、歌手のみならず広い視野に立って教える」という。
「実は、3週間後にハンブルクでコンサートが予定されているのですが、そこにとても才能のあるヴァイオリニストがピアニストとやってくるため、その指導をすることになっています。もちろん、私はヴァイオリニストではないため、弦楽器の技術は教えられませんが、彼らと一緒にヴァイオリン作品の勉強をします。フレージングやアーティキュレーションに関しては、いずれの作品にも共通項がありますからね。豊富な経験と、楽譜の深い読み、そして豊かな音楽性をもった音楽家は、作品全体を見渡す目が備わっているものです。そうした目は、ひとつの作品の大きな鳥瞰図を描くことができます。私はそれを目指しているのです。指揮者がコンチェルトの演奏でピアニストやヴァイオリニストとともにいい音楽を作り出そうとするのは、そうした考えに基づくもので、そこでは指揮者の解釈が問われます。私もそれと同様のことを試みようとしているわけです」
 ゲルネは、2008年からシューベルトの歌曲を網羅した録音プロジェクトを実践している。これは全11巻で構成され、巻ごとに彼が信頼を寄せているピアニストと共演する形を取っている。現在は8巻まで進行し、2014年秋には「冬の旅」がリリースされる予定だ(キングインターナショナル)。
「このプロジェクトは私がすべて計画し、レコード会社に提案しました。ピアニストに関しても、この巻はこのピアニストというように決めてアイディアを出したのです。各巻のプログラムは、ピアニストに合わせて作ったといった方が的確かも知れません。長年、多くのピアニストと共演していますし、よく知っている人ばかりですから、この曲はこの人だな、とわかるのです」
 ピアニストのスケジュールもあるのだろうが、ゲルネはあらかじめこの人と決めて事後承諾で計画を進めたそうだ。この強引とも思えるほどの実行力、確固たる自信、積極性、説得力など、ゲルネの「自分を信じる」「正しいと思うことをする」という信念は、いっさい迷いがない。その強い気持ちが全面的に演奏に反映し、聴き手を納得させてしまう。
 さて、次回の最終回は爆笑ものの子ども時代の話と、次なる夢を語ってもらいたいと思う。

 今日の写真は、2016年2月の来日公演で共演したピアニスト、アレクサンダー・シュマルツと。


タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 14:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | インタビュー・アーカイヴ
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