2017年06月19日
チェンバロの新譜
近ごろ、チェンバロの新譜が相次いでリリースされている。
世界のチェンバリストのこだわりのプログラムで、ベテランから新人まで多種多彩。チェンバロ好きの私としては、毎日ワクワクする思いで、1枚ずつじっくり耳を傾けている。
トップバッターは、1984年テヘラン生まれのマハン・エスファハニ。アメリカとイギリスで学び、2009年のロンドン・ウィグモア・ホ―ルのデビュー・リサイタルで成功を手にし、2011年にはプロムス室内楽シリーズでJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を演奏し、知名度が一気に高まった。
現在は、恩師のズザナ・ルージチコヴァと密にコンタクトをとるため、プラハを生活の拠点にしているという。
エスファハニがドイツ・グラモフォンに録音した新譜は、その「ゴルトベルク変奏曲」(ユニバーサル)。楽譜に忠実にリピートを行う奏法だが、冒頭からかなりユニークな演奏。聴き慣れた「ゴルトベルク変奏曲」が新たな作品となって蘇るようで、楽器の音色の変化、テンポやリズムの創意工夫、速度変化、自由自在な装飾音など、全編に新風が吹き荒れる。
最近、「ゴルトベルク変奏曲」を演奏するピアニストやチェンバリストが多いが、エスファハニの演奏は、脳が覚醒する感覚にとらわれる。
4月に来日し、心に響く印象的な「ゴルトベルク変奏曲」を聴かせたジャン・ロンドーは、ブログでもたびたび紹介したフランスの新鋭。彼の新譜は、「ディナスティ―王家―バッハ一族のチェンバロ協奏曲集」(ワーナー)。大バッハとその息子たちの作品を交えながらの選曲で、それぞれロンドーの個性が色濃く映し出された演奏。ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、バスーンとの共演で、来日時にインタビューしたときに、「あなたが全体の指揮をしたり、リードしたり、全体をまとめる立場?」と聞いたら、「いやいや、ぼくはただ弾いているだけ。みんな実力者だから、それぞれの立場をしっかり理解している。リハをきちんとしていれば、録音の本番はバッチリ合うよ」といっていた。
珍しい作品も含まれ、ロンドーのバッハへの深い敬愛の念が凝縮している。
J.S.バッハの「バルティータ(全曲)」をレコーディングしたのは、イギリスの指揮者、チェンバリストのリチャード・エガー(キングインターナショナル)。子どものころから聖歌隊でうたい、オルガンを学び、やがてチェンバロはグスタフ・レオンハルト夫妻に師事した。
オペラやオラトリオの指揮が多く、チェンバリストとしての活動も多岐に渡るが、とりわけバッハの作品の演奏が多いようだ。
この「バルティータ」は、音と音の間(ま)が実に個性的で、いわゆるルバートを多用した演奏となっている。指揮者であるためか、音楽全体を俯瞰した眼が感じられ、演奏はスケールが大きく自由闊達である。
最後に登場するのは、フランスの名手、クリストフ・ルセ。彼にはずいぶん前に一度インタビューをしたことがある。とても知的で物静かで、エレガントな物腰が印象的だった。また、「インタビュー・アーカイヴ」で紹介したいと思う。
ルセの新譜は、J.S.バッハ「平均律クラヴィ―ア曲集 第1巻」(キングインターナショナル)。ヴェルサイユ宮殿所蔵のルッカース・オリジナルの楽器(1624年)を使用した演奏で、すべてが自然で、滔々と流れる清らかな水のよう。バッハの時代に回帰したような、そんな印象を抱かせる。
今日の写真は、4枚のチェンバロの新譜のジャケット。時間を見て、ひとつずつ、じっくり聴きどころを綴りたいと思っている。まずは、ゆっくり演奏を堪能したい。

世界のチェンバリストのこだわりのプログラムで、ベテランから新人まで多種多彩。チェンバロ好きの私としては、毎日ワクワクする思いで、1枚ずつじっくり耳を傾けている。
トップバッターは、1984年テヘラン生まれのマハン・エスファハニ。アメリカとイギリスで学び、2009年のロンドン・ウィグモア・ホ―ルのデビュー・リサイタルで成功を手にし、2011年にはプロムス室内楽シリーズでJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を演奏し、知名度が一気に高まった。
現在は、恩師のズザナ・ルージチコヴァと密にコンタクトをとるため、プラハを生活の拠点にしているという。
エスファハニがドイツ・グラモフォンに録音した新譜は、その「ゴルトベルク変奏曲」(ユニバーサル)。楽譜に忠実にリピートを行う奏法だが、冒頭からかなりユニークな演奏。聴き慣れた「ゴルトベルク変奏曲」が新たな作品となって蘇るようで、楽器の音色の変化、テンポやリズムの創意工夫、速度変化、自由自在な装飾音など、全編に新風が吹き荒れる。
最近、「ゴルトベルク変奏曲」を演奏するピアニストやチェンバリストが多いが、エスファハニの演奏は、脳が覚醒する感覚にとらわれる。
4月に来日し、心に響く印象的な「ゴルトベルク変奏曲」を聴かせたジャン・ロンドーは、ブログでもたびたび紹介したフランスの新鋭。彼の新譜は、「ディナスティ―王家―バッハ一族のチェンバロ協奏曲集」(ワーナー)。大バッハとその息子たちの作品を交えながらの選曲で、それぞれロンドーの個性が色濃く映し出された演奏。ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、バスーンとの共演で、来日時にインタビューしたときに、「あなたが全体の指揮をしたり、リードしたり、全体をまとめる立場?」と聞いたら、「いやいや、ぼくはただ弾いているだけ。みんな実力者だから、それぞれの立場をしっかり理解している。リハをきちんとしていれば、録音の本番はバッチリ合うよ」といっていた。
珍しい作品も含まれ、ロンドーのバッハへの深い敬愛の念が凝縮している。
J.S.バッハの「バルティータ(全曲)」をレコーディングしたのは、イギリスの指揮者、チェンバリストのリチャード・エガー(キングインターナショナル)。子どものころから聖歌隊でうたい、オルガンを学び、やがてチェンバロはグスタフ・レオンハルト夫妻に師事した。
オペラやオラトリオの指揮が多く、チェンバリストとしての活動も多岐に渡るが、とりわけバッハの作品の演奏が多いようだ。
この「バルティータ」は、音と音の間(ま)が実に個性的で、いわゆるルバートを多用した演奏となっている。指揮者であるためか、音楽全体を俯瞰した眼が感じられ、演奏はスケールが大きく自由闊達である。
最後に登場するのは、フランスの名手、クリストフ・ルセ。彼にはずいぶん前に一度インタビューをしたことがある。とても知的で物静かで、エレガントな物腰が印象的だった。また、「インタビュー・アーカイヴ」で紹介したいと思う。
ルセの新譜は、J.S.バッハ「平均律クラヴィ―ア曲集 第1巻」(キングインターナショナル)。ヴェルサイユ宮殿所蔵のルッカース・オリジナルの楽器(1624年)を使用した演奏で、すべてが自然で、滔々と流れる清らかな水のよう。バッハの時代に回帰したような、そんな印象を抱かせる。
今日の写真は、4枚のチェンバロの新譜のジャケット。時間を見て、ひとつずつ、じっくり聴きどころを綴りたいと思っている。まずは、ゆっくり演奏を堪能したい。
