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エミール・ギレリス

 現在発売されている「レコード芸術」9月号は、「ヴィルトゥオーゾ・ピアニストの世界」という特集を組んでいる。
 このなかの「20人の評論家の聞く わたしの考えるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト」という人選と、そのなかの第2位になったエミール・ギレリス、第6位になったアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリの記事を担当した。
 今日は、ギレリスについて綴ってみたい。
 私の愛聴盤のひとつに、ギレリスの演奏するグリーグの「抒情小曲集」の録音がある。ギレリスは「鋼鉄のタッチをもつピアニスト」と呼ばれ、幅広いレパートリーを誇り、そのいずれもが完璧なるテクニックと深い表現力と音楽性に満ち、ピアノを豊かに大きく鳴らし、生前は世界各地で演奏するたびに嵐のような喝采に包まれたと伝えられている。  
 しかし、この「抒情小曲集」は静謐な美と柔和な色彩感に富み、各曲が詩的で情感あふれる歌を紡ぎ出している。それはあたかもギレリスの誠実で優しく、温かな人間性を表しているようだ。
 彼に関しては、死因もあれこれ取り沙汰され、いまだ謎に包まれているピアニストなのである。
 常にリヒテルとくらべられ、次第にその陰に隠れるようになってしまったギレリス。だが、残された数多くの録音がギレリスの偉大さ、真の天才性をいまに伝え、輝きに満ちた圧倒的な存在感を放つロシア・ピアニズムは、いまなお偉才を放っている。
 その「レコード芸術」のなかでも紹介したが、「ギレリス 1964年シアトル・リサイタル」(ユニバーサル)という新譜が登場した。これは生誕100年を記念して初リリースとなったもので、1964年12月6日にシアトルのオペラ・ハウスで開かれたリサイタルのライヴで、ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」からプロコフィエフのソナタ第3番、「束の間の幻影」、ドビュッシーの「映像 第1集」など、多彩な作品が並ぶ。
 曲が終わるごとに嵐のような拍手が巻き起こり、アンコールも収録。もちろん録音は古いが、会場の熱気が伝わってくるような臨場感がある。
 ギレリスは、本当にナマを聴きたかったと切望するピアニストである。残された音の記録は、聴き手の記憶に残る偉大なる財産である。
 今日の写真は、シアトル・ライヴのジャケット。ギレリス、48歳のときの姿である。





タグ:"Yoshiko Ikuma"
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