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マウリツィオ・ポリーニ×ステージマネージャー

 先日、サントリーホールでポリーニの演奏を聴きながら、あるエピソードを思い出した。
 ステージマネージャーというのは、バックステージのすべてを把握する仕事で、ホール内の空調から照明、楽屋のアーティストの様子、リハーサルの立ち合い、オーケストラの配置や楽器に関することまで、ありとあらゆることに気を配らなくてはならない。
 サントリーホールには、Iさんという、15年間このホールの仕事に携わるベテランのステージマネージャーがいるのだが、彼に取材したとき、ポリーニの話が出た。
 クラシックのアーティストは繊細な神経の持ち主で気難しい人が多く、完璧主義ゆえ、リハーサルのときからとても気を遣うそうだが、ポリーニはステージ上のピアノの位置をこまかくチェックするのだという。
 端から何センチとか、現代作品を弾くときはピアノを前方に置くとか、とてもこまかい指示が出るそうだ。
 そこで、Iさんは一計を案じ、ノートにこまかく楽器の位置を書き込み、次の来日のときには「前回はこうでしたよ」とノートを提示した。
 するとポリーニは、そこまで考えてくれたかと安心して、それ以上はいわなかったそうだ。
 さらに、ポリーニは楽屋で完全に精神を集中させてステージに歩みを進めるため、Iさんは、コツコツと足音が聞こえてきたのを見計らい、絶妙のタイミングでステージへのドアをさっと開けるのだという。
 もうその時点で、ポリーニの目は完璧に演奏モードに入っているからだ。
 こうしたアーティストのその日の調子をすべて呑み込み、あらゆるケアをするステージマネージャーの仕事は、さぞ神経が疲れるに違いない。
 しかし、Iさんは切り替えが早く、終わったことはすぐに忘れ、翌日へと気持ちを向けるのがストレスをためないコツとか。
 アーティストを陰で支えるステージマネージャー、通称「ステマネ」の仕事は、取材をして初めて詳細を理解することができた。
 ひとつの演奏会というのは、実に多くの人の力で成り立っている。その一端を垣間見る思いにとらわれた。
タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 22:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 巨匠たちの素顔
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