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キリル・ゲルシュタイン

 昨夜は、「東京・春・音楽祭」のキリル・ゲルシュタインのリサイタルを聴きに東京文化会館小ホールに出かけた。
 ゲルシュタインは4月5日の室内楽にも出演予定である。
 今回のゲルシュタインに関しては、音楽祭の公式プログラムに原稿を寄せた。それゆえ、リサイタルをとても楽しみにしていた。
 プログラムはシューマンの「花の曲」で開幕。ゲルシュタインの得意とするアデスやクルターク、コダーイとともにシューマンの「謝肉祭」、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」より「花のワルツ」、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」という舞曲の要素がふんだんに取り入れられた作品が並ぶ。
 実は、オープニングのシューマン「花の曲」は、私が音大の卒演で選曲したもの。これはあまりナマで演奏される機会に恵まれない作品ゆえ、今回は何十年も前の記憶が蘇り、とてもなつかしく感慨深かった。
 ゲルシュタインのピアノは、真のピアノ好きに愛されるもの。テンポ、リズム、フレージング、ハーモニー、打鍵の深さ、ペダリングなど、すべてにおいて鍛え抜かれた美質を発揮するものの、けっして堅苦しくなく、ジャズを得意とする彼らしい即興性と躍動感と創意工夫に富んでいる。
 アンコールがこれまた絶品。ラフマニノフの「幻想的小曲集」より「メロディ」と、ショパンの「ワルツ第5番」が演奏されたが、とりわけショパンのワルツのすばらしさが胸に突き刺さってきた。
 こんなワルツはこれまで聴いたことがない。ゲルシュタインがショパンを弾くと、こんなにも上質で格調高く、精神性に満ちたワルツになるのかと、作品の新たな面を発見する思いに駆られた。
 ホールを出ると雨は止んでいたものの、ものすごく寒かったが、心のなかは充足感に満たされて温かかった。

posted by 伊熊よし子 at 15:02 | マイ・フェイバリット・ピアニスト
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