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ネルソンス指揮ウィーン・フィル

 ウィーン・フィルの音は、なぜこんなにもまろやかで流麗で、心の深奥にゆったりと染み込んでくるのだろうか。
 11月13日、サントリーホールでアンドリス・ネルソンス指揮によるウィーン・フィルの演奏を聴き、心身がとろけてしまうような感覚にとらわれた。
 プログラムは前半がベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、ソリストは私の大好きなピアニスト、イェフィム・ブロンフマンだ。
 後半はR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」という構成。
 ブロンフマンのピアノは、まさにウィーン・フィルの響きと一体化し、清らかで品格に満ちた美しいベートーヴェンを生み出す。どんな強音もけっして鍵盤を叩くことなく、深々としたタッチで味わいのある音を紡ぎ出し、しかも上半身は微動だにしない。ペダルもごく自然体。大きなからだを動かさず、完全に脱力ができているため、腕と手と指の動きだけで多種多様な音が流れる水のような清らかさで流れてくる。
 よく、インタビューでピアニストが、「ブロンフマンのようにがっしりした体躯でピアノの前にデンとすわり、どこにも余分な力を入れずに、どんな難度の高い箇所も楽々と弾けたら最高でしょうね」と話すが、まさにそれを目の前で見る思いだ。
 しかも、ベートーヴェンのロマン豊かな緩徐楽章などは、聴き手に夢を見させてくれる。
 後半の「英雄の生涯」は、ネルソンスとウィーン・フィルの密度濃い絆を感じさせた。ウィーン・フィルのR.シュトラウスは、あたかもオペラを聴くよう。全編に歌心が満載で、現地の国立歌劇場に飛翔したような思いを抱き、至福の時間を過ごした。
 帰路では、冒頭の主題が頭のなかで渦巻き、ずっとウィーン・フィルのエレガンスに酔っていた。


posted by 伊熊よし子 at 22:59 | クラシックを愛す
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