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アレクサンドル・カントロフ

2019年のチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門において、フランス人として初優勝に輝いたアレクサンドル・カントロフは、著名なヴァイオリニストのジャン=ジャック・カントロフを父にもつ。彼はブラームスをこよなく愛し、コンクールでも演奏していたが、来日公演のたびに得意とするブラームスを披露している。

カントロフの演奏は、1997年生まれという年齢をまったく意識させない成熟したピアニズムで、深遠で詩的で哀感に富み、諦観の念を抱かせる表現に心が震える。ここまでブラームスの心情に寄り添えることに深い感銘を受ける。余分なことは一切せず、淡々と弾いていくその響きは、真のピアノ好きの心をとらえてやまないもの。40歳過ぎに本当に花開く、大器晩成タイプだと思う。

カントロフのピアノは真のピアノ好きの心をとらえてやきない熟成した演奏で、一つ一つの音が磨き込まれ、説得力をもつ。10月17日に東京オペラシティコンサートホールで行われたリサイタルは、ブラームスのピアノ・ソナタ第1番から始まった。待ってましたとばかりに胸が高鳴るブラームスで、作品の本質に迫る熱きピアニズムが繰り広げられた。J.S.バッハ(ブラームス編)の「シャコンヌ」へと続け、超絶技巧をものともせずにかろやかに弾き進め、とりわけ左手の雄弁さが際立っていた。

後半はシューベルト/リストの「さすらい人」「水車職人と小川」「春への想い」「街」「海辺で」で豊かな歌心を思いっきり奏で、そのままシューベルトの「さすらい人幻想曲」へと突入。なんというこだわりのプログラムだろうか。もうこの人の類まれなる才能は、ため息が出るばかり。

同時代に生きていてよかったと思わせてくれるアーティストは何人かいるが、カントロフはもっとも若いひとりとして私の心に深く刻み込まれている。2024年11月30日には、いよいよサントリーホールでのリサイタルが実現するそうだ。まだ1年以上先のことだが、いまから期待に胸がふくらむ。

なお、アンコール4曲もカントロフらしい選曲だった。

サン=サーンス(ニーナ・シモン編):オペラ「サムソンとデリラ」から「あなたの声に私の心は開く」、ストラヴィンスキー(アゴスティ編):バレエ「火の鳥」からフィナーレ、シューベルト/リスト:万霊節の日のための連祷、リスト:「超絶技巧練習曲」から「雪かき」







posted by 伊熊よし子 at 23:24 | マイ・フェイバリット・ピアニスト
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