2023年01月17日
ネルソン・ゲルナー
2022年11月19日のブログで綴った、ネルソン・ゲルナーのリサイタルが、1月15日に浜離宮朝日ホールで開催された。
このプログラムノートも書いたため、前半のショパン:4つのバラード、後半のリストのピアノ・ソナタ ロ短調という選曲は、とても楽しみにしていた。
ピアニストは第1音から聴き手を引き付け、その磨き抜かれたテクニックと深い表現力で最後まで魅了する人が時折登場するが、ゲルナーはまさにバラード第1番の冒頭から「ただものではない」という稀有なピアニズムを披露した。
ひとつひとつの響きがあるべき姿で存在し、心の奥深く浸透してくる。
1音たりともおろそかにせず、緊迫感はみなぎっているのだが、けっして堅苦しくない。音楽はごく自然に流れ、しかも説得力があり、これまで聴いたどのショパンとも異なっていた。
とりわけ胸の奥にずっしりと響いてきたのは、バラード第4番。ピアニストにインタビューすると、ほとんどの人が「バラードのなかで第4番がもっとも難しい」と語る。
その難しさをみじんも感じさせず、作品の偉大さを前面に押し出す奏法で、バラードの異なる面を見る思いがした。
後半のリストのロ短調ソナタは、ゲルナーの自家薬籠中の作品。単一楽章の長大で、壮大で、気高さも備え、ピアニストの資質がすべて現れてしまうこのソナタを、ゲルナーはカデンツァの反復や主題の移り変わり、フガート風の展開などを実にこまやかに成熟した音色で弾き込み、リストの偉大さを知らしめた。
この後がまた大変。鳴りやまぬ拍手に応え、アンコールは4曲も続いた。しかも珍しい作品も登場。
パデレフスキ、リスト、カルロス・グァスタヴィーノの作品に続き、最後はエヴラー:ヨハン・シュトラウスの《美しく青きドナウ》に基づく演奏会用アラベスク。これがゲルナーでないと弾けないと思わせる超絶技巧で、音数の多さがハンパではなく、会場はやんやの拍手喝采となった。
ネルソン・ゲルナー、すばらしく充実したピアニストですゾ。聴き逃した人は、次回はぜひナマの体験を。ちょっとやそっとのストレスは吹き飛び、心が温かくなり、ピアノを聴く歓びに満たされます!
posted by 伊熊よし子 at 22:24
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