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ジャン・ロンドー

 ドメニコ・スカルラッティのソナタK208という曲には、強い思い入れがある。
 この曲は、スカルラッティのソナタ全555曲の世界初録音を敢行したスコット・ロスが、「もっとも好きだ」と語った曲。
  チェンバロの名手として知られるスコット・ロスの演奏を初めて聴いたのは、1980年7月30日、ベルギーの古都ブルージュで行われていたフランドル音楽祭の一環である、メムリンク美術館でのコンサート。
  初めて聴くスコット・ロスの演奏は、あまりにも強烈。ひとつひとつの音が胸の奥に突き刺さってくるようで、呼吸ができないような感覚に陥った。
  ロスはスカルラッティの生誕300年を記念し、1985年に世界初録音を完成させた。以来、私はK208を数えきれないほど聴き、そのつどブルージュで聴いた演奏を思い出している。
  今日は王子ホールにジャン・ロンドーのチェンバロ・リサイタル(J.Sバッハ&スカルラッティ)を聴きに行ったが、そのプログラムのなかにK208があった。ああ、なんという幸せ。
  ジャン・ロンドーは私が大好きなチェンバリストで、微妙なアーティキュレーションとルバートがたまらない。あるべきところにそれらが存在するという、まさに「こういうチェンバロが聴きたい」と思わせてくれる奏者。
  久しぶりにナマで聴くスカルラッティのK208は、私をブルージュへとタイムスリップさせてくれた。ロスが弾いているようで、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。
  なんとすばらしい曲だろうか。そして、なんと自然体で情感あふれる演奏だろうか。  
  ジャン、ありがとう。しばし現世を離脱し、夢の世界へと運ばれるひとときだった。
  音楽とは不思議なものである。ある曲を聴くと、過去にその曲を聴いたときにスーッと戻っていく。そのときの自分の感情、思い出の場所、一緒に聴いた人の顔まで思い出される。
  いま、私はピアノもチェンバロも引き払ってしまい、自宅には何の楽器も置いていない。でも、今日のジャンのスカルラッティを聴いて、ぜひ自分でもまた弾いてみたいという気持ちがムラムラと湧いてきた。
 電子チェンバロを買いたいと思っているのだが、練習する時間がない、資金がない、置く場所もないという三重苦ゆえ、なかなか難しい(笑)。
  でも、なんとかK208を自分の愛奏曲にしたい!
  今日の写真は、以前インタビューしたときのジャン・ロンドー。今回もひげと長髪は変わっていなかった。

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posted by 伊熊よし子 at 23:19 | クラシックを愛す
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