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マティアス・ゲルネ

 昨日は、台風のなか、サントリーホールにマティアス・ゲルネのシューベルト「冬の旅」を聴きにいった。
 このリサイタルは、ピアノをクリストフ・エッシェンバッハが担当するということで、以前から話題になっていたが、エッシェンバッハが左手の故障により急遽キャンセルとなってしまった。
 代わりにピアノを担当したのは、世界各地でゲルネと「冬の旅」で共演を重ねているマルクス・ヒンターホイザー。ウィーン芸術週間の芸術監督、ザルツブルク音楽祭の芸術監督を務めていることで知られ、近年は現代音楽の演奏にも取り組んでいる。
 ゲルネの歌声は、やわらかく美しい弱音と、身体全体を鳴らす強音とのバランスが見事で、聴き慣れた「冬の旅」にまったく新しい風を吹き込むものだった。
 約90分間、一瞬たりとも弛緩することなく、緊迫感に満ち、ピアノとの音の融合に神経を張り巡らし、歌詞を大切にうたい込んでいく。
 ピアノとの音の対話はもちろん濃密なのだが、時折ひとり芝居のように演技力を発揮し、詩の内容に合わせて顔の表情まで変えていく。
 ひとつひとつの曲が、まるで異なった世界のような空気を生み出し、戯曲を紡いでいくよう。
 ゲルネは、以前のインタビューで語っていたことだが、「冬の旅」は偉大な恩師たちとは学ばず、自分でずっと勉強を続けたという。
 その成果が存分に現れ、深々とした情感に富む、えもいわれぬ美しく哀しく、心に響くシューベルトだった。
 ヒンターホイザーのピアノがまたすばらしく、こんなにも歌に寄り添う美しいシューベルトは、稀である。
 終演後、楽屋を訪れると、折しも演奏を聴きにいらしていたプレスラーにバッタリ。彼は、ゲルネとシューベルトの共演をしたことがある。楽屋でゲルネとヒンターホイザーと話し込んでしまったため、今回は写真を撮ることができなかった。
 大雨のなかだったが、本当に聴きにいってよかった。「冬の旅」の奥深さを知らされた一夜だった。
posted by 伊熊よし子 at 22:47 | クラシックを愛す
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