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クルト・モル

 ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場が、クルト・モルの訃報を発表した。
 クルト・モルはドイツの著名なバス歌手。1938年4月11日ケルン近郊で生まれ、モーツァルトやワーグナーのオペラで活躍した。亡くなったのは、3月5日、享年78。
 ザルツブルク音楽祭やバイロイト音楽祭で個性的な歌声を披露し、演技力もすばらしかった。2006年に健康上の理由により、惜しまれつつ引退している。
 最後の舞台となったのは、バイエルン国立歌劇場のワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」だった。
 クルト・モルの歌声で忘れられないのは、カルロス・クライバー指揮ウィーン国立歌劇場によるR.シュトラウス「ばらの騎士」である。1994年3月のウィーン公演と、同年10月の東京公演のふたつを聴くことができた。
 これはフェリシティ・ロット、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター、バーバラ・ボニー、クルト・モルという当時考えられる最高のキャストが組まれた公演で、日本でも語り草となっている。
 2回とも、いまなお忘れえぬ深い感銘を受けた公演だったが、実は、クルト・モルに関しては、こんな思い出がある。
 来日公演が行われている時期、FM誌の編集担当者と彼らが宿泊しているホテルに出向き、仕事をしていたのだが、ロビーで待ち合わせをしていると、クルト・モルの姿が見えたのである。
 彼は夫人を伴い、上質のスーツ姿で立ち話をしていたのだが、圧倒的な存在感を放っていた。
 いつもオペラでは、コミカルなオックス男爵を演じ、うたう姿しか見ていないため、その知性的で凛としたたたずまいには、惚れ惚れとしてしまった。
 そうか、素顔はこういう人なんだと驚いた覚えがある。
 私はその直後、会う人ごとにクルト・モルの話をし、「すっごい素敵よ」といい続けたものだ。
 インタビューをする機会はなかったが、できることだったら話を聞きたかった。
 でも、あのインテリジェンスで男性的で包容力のある雰囲気は、いまだはっきり脳裏に焼き付いている。
 クルト・モルは深々とした低音の響きを聴かせたが、演技力も見事だった。フォン・オッターとのやりとりは、残された映像を観るたびに笑いがこみあげる。
 ご冥福をお祈りします。
タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 22:36 | Comment(309) | TrackBack(0) | 巨匠たちの素顔
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