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ミシェル・ダルベルト

 フランスはピアニストが多い、とはよくいわれることばである。
 昔から、フランスのピアニストは特有のエスプリとウイットとユーモアをピアノに託し、繊細かつ抒情的で、しかも抑制された情熱を秘めた演奏をする人が多かった。
 現在も、新人からベテランまでさまざまなピアニストがひしめきあう状態だが、今日はそのなかのひとり、実力派のミシェル・ダルベルトのリサイタルを聴きに浜離宮朝日ホールに行った。
 プログラムは、前半がフォーレの「バラード嬰ヘ長調」と「ノクターン第7番、第13番」とフランクの「前奏曲、コラールとフーガ」。
 後半がブラームスの「4つのバラード」と「パガニーニの主題による変奏曲」という、いまのダルベルトを如実に映し出すプログラム。
 彼は、つい先ごろフォーレの「ピアノ作品集」(キングインターナショナル)をリリースしたばかり。
 その話を聞きに、昨日は夕方から宿泊先のホテルに出向き、久しぶりにインタビューを行った。これは次号の「intoxicate」に書く予定である。
 ダルベルトは、昔はフォーレの作品があまり好きではなく、むしろ嫌いだったという。それが室内楽作品を演奏することにより、徐々にそのすばらしさに目覚め、やがてピアノ作品を弾くようになる。
「フランスでは、自分が長年考えていることを変えるのはよくないといわれるけど、日本ではどうなのかな」
 フォーレが好きではないといっていたのに、いまや録音まで行い、来日公演でも演奏するほど好きになったことを指しているのだが、私が「日本では、そうした考えを変えることは別に悪いこととは思われない」というと、「そう、安心したよ。そういえば、私は昔、きみにショパンもあまり好きではないといわなかったっけ」といわれたけど、これは正直いって覚えていない(笑)。
 インタビューでは、フォーレの作品論から、恩師のヴラド・ペルルミュテールの教え、フランス作品に関して、指揮活動について、教育者としての立場など幅広い話を聞くことができた。
 とりわけ興味深かったのは、日本人の若手ピアニストをどう導くかということについて。
「音楽は抑揚やニュアンスが大切だけど、日本語はフラットでアクセントを強調しない言語だから、どうしても演奏も平坦になりがち。やはりヨーロッパの音楽を勉強する場合は言語が大切」と力説した。
 この話はまだまだ奥深く、ダルベルトの教育者としての顔を垣間見ることができた。彼はクララ・ハスキル・ピアノ・コンクールの審査委員長も務めていたし、現在はパリ音楽院教授としても後進の指導に当たっているため、ひとつひとつの話がとても内容が濃かった。
 今日のリサイタルは、まさに心身の充実を物語る演奏で、フォーレはもちろんだが、「いま一番弾きたいのはブラームス」と語っていたように、ブラームスの「4つのバラード」が出色だった。
 こんなに熟成したピアノを聴いたのは、久しぶりのこと。ブラームスの古典的であり、ロマン的であり、悲劇性を伴った作風がダルベルトの鍛え抜かれたテクニックと表現力でゆったりと紡がれると、まさしくブラームスの深い抒情が立ちのぼってくるよう。これがベテランのピアニズムの真情である。
 昨日は、午前1時過ぎまでれいのドミンゴのパーティがあり、明け方ベッドに入ったため、夕方からのダルベルトのインタビューでは、頭がまだウニウニ状態だったが、なんとか集中力を振り絞ってたくさんの話を聞くことができた。
 そして引き続き、今日はリサイタルを聴いたわけだが、本当に熟成したワインのような深々とした味わいのピアノに、一気に脳が覚醒した。
 今日の写真は、昨日のインタビューでのひとこま。ダルベルトは、いつ会っても、ビシッとおしゃれな服装で決め、いわゆるパリジャンということばがピッタリ。今回も、淡いネクタイとカフスボタンがとても素敵で、粋な大人の雰囲気を醸し出していた。ちょっと気難しいところも、またこの人の変わらぬ個性だ。


 
 
 
タグ:"Yoshiko Ikuma"

プラシド・ドミンゴ&ルネ・フレミング プレミアム・コンサート・イン・ジャパン2017

 昨年夏から関わっていたプラシド・ドミンゴの日本公演の仕事が、ようやく昨日のコンサートでひと段落した。
 あとは、「公明新聞」に公演評を書くことですべて終了となる。
 19時30分に開幕したコンサートは、前半にヴェルディの歌劇「マクベス」から「慈悲・尊敬・愛」(ドミンゴ)、チーレアの歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」から「私は創造の神のつつましい召使い」(フレミング)などのオペラ・アリアが次々に登場。ふたりのあたかもオペラの舞台を連想させるような歌唱と表現力、演技力が東京国際フォーラムAホールの5000人を包み込み、聴衆は集中力をもってシーンと聴き入る。
 前半の最後は、ヴェルディの歌劇「シモン・ボッカネグラ」からシモンとアメーリアの二重唱「まずしい女が孤児の私を」がドミンゴとフレミングによってうたわれ、両者の成熟した歌声がこだまする。
 後半は、皇后陛下御臨席のもと、ドミンゴの得意とするサルスエラやフレミングのミュージカル・ナンバーなどがうたわれ、バーンスタインの「ウエスト・サイド物語」から「トゥナイト」がふたりよって熱唱され、プログラムを閉じた。
 しかし、ここからが彼らの真骨頂だ。エンターテイナーであるふたりは、アンコールに「ベサメ・ムーチョ」「グラナダ」(ドミンゴ)、「私のお父さん」(フレミング)をうたい、昨年亡くなったレナード・ノーマン・コーエンの「ハレルヤ」(フレミング)も登場し、拍手喝采は止まらなくなった。
 そして、これを聴かずには帰れないという聴衆の期待に応え、「故郷」がうたわれ、会場はスタンディングオベーションがしばし止み、感動的な大合唱となった。
 ドミンゴはフレミングを抱えるようにしてレハールの「メリー・ウィドウ・ワルツ」で踊りも披露し、2時間強にわたる至福の時間は幕を閉じた。
 その後、ザ・キャピトルホテル東急に移り、ドミンゴ&フレミングを囲んで内輪のパーティが行われた。
 パーティが始まったのがほぼ11時。それから2時間にわたって着席のフルコースの食事会となり、すべてが終了したのは午前1時を回っていた。
 本当に長い1日だった。
 パーティの始まる前、フレミングには以前インタビューしたことがあるため、あいさつをし、ドミンゴには昨秋のロサンゼルスでのインタビューのお礼をひとこといった。
 すると、彼は「今夜のコンサートは楽しめた?」と聞いたため、私が「いま、とても幸せな気持ちです」と答えると、「それを聞いて、私も幸せだよ」といってほほ笑んだ。
 なんと温かく、真摯で、わけ隔てのない、すばらしい人柄なのだろう。ドミンゴは、みんながその性格を褒めるが、私も本当に率直で、オープンで、根っからの明るさを備えた人だと思う。
 
 写真は、素適な笑顔のフレミング。



 ちなみに、ドミンゴ&フレミングを囲んでの食事会のメニューは、ホテルがものすごく力を入れたすばらしいラインナップだった。
 
[アフタ―コンサートディナー]
蟹とグリーンピースのババロア セルクル仕立て キャビア飾り マスタードソース



温かいコンソメスープ 茸の香りと共に
国産牛サーロインのロースト 焦しオニオンソース なめらかなポテトピュレを添えて
野菜サラダ
桜のブラマンジェ 花びらをソースに散りばめて



ホテルベーカリーのパン取り合わせ
コーヒー又は紅茶
 
 これらに合わせて、シャンパン、白ワイン、赤ワインが供された。
 本当に、長い時期にわたる仕事だったが、記憶に残るコンサートで終幕を迎えることができた。



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posted by 伊熊よし子 at 22:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 終わりよければ…取材奮闘記

別府の山海の幸

 別府に出張してから、はや1週間が経った。本当に月日の経つのは早いものだ。
 別府に着いたのは3月3日のひな祭りの日。打ち合わせのあと、担当の女性ふたりと女子会に出かけた。
 しいきアルゲリッチハウスからそんなに遠くない場所に、「懐石 千原」というお店があり、和風の素敵な外観からして、もう期待大。
 和室に通されてひと息つくと、もうそこからは次々に山海の新鮮な食材を用いたお料理が供され、目も舌も目いっぱい楽しませてもらった。
 女性3人ゆえ、話は尽きない。食べる、飲む、しゃべると、目まぐるしいほどである。
 この日、選んだお酒は「智恵美人」。少しだけお燗をしてもらい、香りを楽しみながら、ゆっくりいただいた。
 大分は、本当に多種多様な食材があり、味付けもほどよく、だしや薬味などを効かせ、いずれのお料理も新鮮で味わい深い。
 今日の写真は、すばらしい色彩と美味のお料理の数々。まだこのほかにも、山菜のてんぷらやご飯ものやお漬物、お吸い物、煮物などがあり、「もう、これ以上は無理」というほど、たくさんいただいた。
 やっぱり、出張するなら、おいしい物があるところが最高だよねえ(笑)。
 本当においしかったです。ごちそうさまでした!










タグ:"Yoshiko Ikuma"
posted by 伊熊よし子 at 23:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 美味なるダイアリー
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